おはなしの森

日々を過ごし感じること、思い浮かぶこと。世界はたくさんの物語で溢れている。

はじまり

 

 

瞼をゆっくりと持ち上げる

 

視界に入ってきたのはぼんやりとした世界。

薄暗く、ゆらゆらと光が揺れている。

 

とっとっとっ

 

様々な音が聞こえる中で一際大きく聞こえている一定のリズムで刻まれた音にとてつもない安心感を覚えてゆっくりと瞬きをした。

 

ときおり遠くの方から届く、くぐもった心地よい振動がくすぐったくて、幸せで手足をパタパタと動かしてみる。

 

振動が一段と大きくなって、心地よい振動にゆっくりと瞼が閉じてゆく。

 

「はやく、会いたいわ。私の赤ちゃん。」

 

意識が落ちていく寸前、優しく暖かい振動が私を包み込んだ気がした。

 


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私だけの大切な

 

 

順位をつけるのが苦手だった。

 

大切なもの

 

すきなもの

 

おきにいり

 

私の中にそれは沢山あって、世界にもそれは溢れかえるほど沢山あるのに

みんなが言う

 

「どれが1番いい?」

 

と。

 

1番ってなんだろう。

何にでも、いい所と悪いところがあるのに。

どうやって1番を決めてるんだろう?

私は全部好きだけどな。

全部好きじゃダメなのかな。

 

 

人は優劣をつけたがるもので、

何かにおいて競うのが好きで

順番をつけたがる

 

 

誰かが言った。

【お前は甘い。現実を舐めてる。】

 

誰かが呆れた。

【競争心が無さすぎる。上を目指そうとは思わないの?】

 

誰かが怒った。

【いい子ちゃんぶるな。八方美人かよ。】

 

誰かが哀れんだ。

【君は執着心が無さすぎる。人として何か欠けてるみたいだ】

 

 

わからない。

わからない。

わからない。

 

 

楽しいだけじゃダメなのかな?

みんな優しいね。暖かいねって

それじゃあダメなの?

たった一度きりの人生なのに。

 

人生は辛く苦しい

 

 

それって一体誰が決めたんだろう?

 

楽しく幸せでのほほんとお気楽気分で

 

それの一体どこがいけないことなんだろう?

 

 

たった一度の人生だよ?

 

自分だけの、自分のための人生だ。

 

 

なんでその生き方を他人にアレコレ指図されなきゃいけないの?

 

そんな狭い中に無理やり収まろうとするから辛くて苦しいんじゃないのかなぁ?

 

飛び出してみればいいのに。

きっと自分が思っているよりも簡単にソレは壊れる。

 

考え方ひとつ。

捉え方ひとつ。

 

少し視点を変えるだけでもきっと違う。

 

助けてくれる人は思ったより周りにいてくれて

手を伸ばせば意外と誰かが手を取ってくれるもの。

 

 

踏み出すその1歩はきっととてつもなく怖いかもしれないけれど、踏み出しちゃえば案外なんともないかも。

 

自分だけのものだよ人生は。

どう生きるかも、どうあるのかも。

全部、全部、自分で決めていい。

 

 

 

だから、わたしはこれでいい。

 

 

 

 

【短編】ときはなつ


青。

蒼。

碧。

あお。


真白くそびえ立つソレを睨みつけていた数分前とは打って変わって僕はひたすらに腕を動かす。

黄色に、

赤に、

白。


みどり。

時々、黒。

上から下へ。

円を描いて。

叩きつけて、

はね上げる。

一瞬足りとも、脳内に焼き付いたソレを消さないように。

瞬きもせず、薄れる前に。

しかし忠実に再現する

重ねて、削って、混ぜ込んで。

なにかに取りつかれたように一心不乱に練り上げる。

 

・・・やっと1つ。
息を吐く。細く長い息だ。

 

じっと己の吐き出したものを見つめ、呼吸をゆっくりと深く繰り返す。

 

「ねぇ、それ何?」

 

不意にかけられた彼女の声。
いつからいたのか分からないが、そんな事は大した問題じゃない。

 

「知らない。」

 

キャンパスから目を離さず、応える。

 

「急に湧いてきたんだ。溢れて来たから書き留めなきゃと思って。垂れ流しにするには惜しい。」

 

じっくりと、キャンパスを見つめる。
彼女の言葉に答えてはいるが、僕の頭は目の前のソレでいっぱいだ。

 

「まるで貴方がもう一人いるみたい。」

 

「それはそうだろう。これは僕が吐き出したんだから。これは僕だよ。」

 

どうしてだろう。
正確に書き留めたはずなのに。気持ちが悪い。
歪だ。こうではない。これではダメだ。
なんだ?何が足りない?

 

ぐるぐると思考を回して、必死に違和感を探るが、
モヤモヤとした形のないものが溜まって行くだけで一向に捉えることが出来ない。
グッと眉間がよっていき、親指の爪が人差し指の腹を弾く。何度も。何度も。

 

次第に足が落ち着きを無くし、大きな舌打ちが響く。

と、同時に。視界に彼女が映る。
彼女はゆっくりとした足取りで、もう1人の僕へと近づいた。

 

「綺麗だね。こんなにもぐちゃぐちゃに混ざってるのに、なんでこんな綺麗なんだろう?」

 

穏やかに微笑みながら、彼女は撫でる仕草をした。
キャンパスから外れなかった視界が彼女へと移る。
白いワンピースを、纏って僕の大好きな瞳を溢れさせる。

 

「でも、ちょっと窮屈そうだね。もっと広がりたいんじゃない?」

 

そう言って僕を振り返る。
真っ直ぐと向けられた視線は、楽しそうに混ぜられてキャンパスのすぐ後ろの壁を指し示す。

 

「・・・ね?収まりきらなくて溢れ出てる。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

 

彼女の言葉に、視線に促されるように僕はもう一度キャンパスに向かった。

 

 

 

 


「本当に綺麗。あなたの作品はなんでも好きだけれど、コレは特に好きかも。」

 

僕の胸にもたれかけながら彼女はうっとりと呟く。
そんな彼女が愛おしくて僕は腕を回して抱きしめた。

 

「僕もだよ。今までの作品の中でこれが一番好き。」

 

「ふふ。お揃いだね?」

 

僕の言葉に嬉しそうに彼女が振り返る。

 

「あぁ。お揃いだ。」

 

僕も応えて彼女にキスを送る。
そうしてもう一度2人で出来上がった作品に目を向ける。

 

初めに描いたキャンパスから広がるように、壁一面に描かれた『 あお』。

複雑に混ざり合い、暴れ回り、喚き散らすソレを柔らかく包み込み、溶け込むように

『 白』が差し込む。


そう、綺麗に決まってる。
僕がどんなにぐちゃぐちゃでも、ドロドロに溢れ出しても君が

 

ぎゅっと縋り付くように腕に力を込めると彼女はくすくすと笑う。

 

「ふふ。幸せだねー。」

 

「・・・あぁ。」

 


『 白』が僕を幸せにしてくれるんだ。




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ゲームのはなし

 

私は飽き性である。

なので、ゲームはやるよりも見ている方が好き。

 

なぜなら、レベル上げやらなにやら細々していることが面倒くさく飽きてしまうからだ。

 

私は壊滅的にゲームに向いていない

 

最初の1、2週間のめり込んでやり込んで、ストーリーが進まなくなってくると「もういいか。」と辞めてしまう。

 

そんな私が、最近ハマっているゲーム。

 

ニーア  リィンカーネーション

 

ニーアシリーズというもののモバイル版らしいが私は今作初めて手をつけてみた

 

結果    面白い

 

まず、雰囲気が好き。

神秘的な、排他的な、どこか寂しげな独特な雰囲気が私の好みにバッチリとハマり。

 

所々に展開される絵本のような影絵のようなグラフィックに心引き込まれ。

 

そして、謎が謎を呼びどんどんと深みへおとすようなストーリー展開にずっぽりとはまってしまったらもうダメで

 

あぁ、なるほどこれが沼か。

 

今までにないハマり具合に自分でも驚いてしまう

 

スマホ片手に気がつけば辺りは真っ暗で

時間がどんどん吸い取られている気しかしない。

 

けれど心は水を得た魚のように生き生きと輝いているのを感じる。

面白いもの。不思議なもの。綺麗なもの。

 

私の心を潤してくれる素敵なゲームとの出会いに心からの感謝を込め

私は今日もスマホへと時間を捧げています。
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【短編】今年もやってきた幸せ

 

 

大きく息を吸って、ゆっくりと吐く

 

爽やかな空気と華やかな香りが肺いっぱいに満たされる。

 

目を開くと瞳に映るのは、雲ひとつない真っ青な空の下に広がる赤や白。

そしてたくさんの人、人、人。

 

ウイルスの影響で去年よりは少ないとはいえ、それでも朝からひっきりなしに人並みは途切れない。

 

仲良さそうに歩く老夫婦

 

キャラキャラと元気に走り回る子ども達

 

集まる人だかりにふらりと寄ってくる人や

 

仲良さげに談笑する若者たち

 

 

老若男女、様々なひとが訪れている。

 

そして、みな一様に天を仰ぎその赤や白、空の青とのコントラストを楽しんでいる。

カメラや携帯を掲げあちらこちらでシャッター音が響いている。

 

明るく、楽しそうにみんな輝くように笑っている。

 

心の中にじんわりと暖かなものが溢れだし、自然と口角があがり「ふふふっ。」と空気が漏れだした。

 

見上げた空ではギラギラと太陽が輝いて私達をサンサンと照らしている。

 

「ふふっ、ふふふ、あははは。」

 

人々の溢れ出す暖かく、跳ねるような気持ちが伝わって自然と私もとても愉快な気持ちで満たされる。

 

楽しくて、暖かくて、愉快で、

 

そして、とっても幸せだわ。

 

 

溢れ出た想いのままに私はふわりとふわりと飛び上がる。

眼下に広がる幸せな光景に、私は大きく宣言する

 

「さあ、春が来たわよ!!!」

 

ぶわりと舞い上がる梅の花吹雪に、人々から大きな大きな歓声が上がった。


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書店

 

 

壁一面に並ぶたくさんの書籍をひとつひとつ見回して歩く。

 

恋愛  冒険  感動  サスペンス   魔法に化学

 

本は異世界への扉であり、窓である。

 

私の知らない世界を、常識を見せてくれる。

たくさんの想いを私の中に溢れさせてくれる。

様々なことを思考して、想像して、

 

私の世界を広げてくれる。

 

 

手を伸ばし1冊抜き取り表紙をなでた。

そして元に戻して隣のたなへ。

 

この中にきっとある。

私が読むべき物語が。

私を成長させ、膨らませ、広げる。そんな扉がこのどこかに。

 

棚を撫で、ひとつひとつ眺め歩く

 

あぁ、楽しみだなぁ

次はどんな世界に出会えるのか

 

沸き上がる気持ちのままに私はゆっくり歩き続ける

 

大切な1冊に巡り会うために。

 


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もどかしい想い

 

 

ふと、見上げた空が綺麗だったから

 

通り過ぎの会話が面白くて

 

目の前を猫がとおりすぎたから

 

 

物語は何処にでも転がっていて

世界は今も広がり続けている

 

目に映るそれらは綺麗で、美しくて

時間を忘れて魅入ってしまう

 

あの子はこれからどんな旅に出るのだろう?

一体なにを想い、願うのか

 

風に運ばれたその想いは、一体誰のもとへ行くのだろう

運ばれたその先でどんな物語が生まれるのだろうか

 

考えれば考えるほど止まらず

胸が強く高鳴った。

 

様々なものが染み入り、湧き出てを繰り返す

 

 

あぁ、私にもっと表現力があれば

私にもっと語彙力があれば

 

あんなに素敵な物語たちを形にできるのに

 

書いては消して

書いては消して

 

伝えたい  見てほしい

 

綺麗で、儚く、優しい物語たちを

 

いつかきちんと伝えられる日を夢にみて

私は今日も筆をとる