おはなしの森

日々を過ごし感じること、思い浮かぶこと。世界はたくさんの物語で溢れている。

いい日が始まる

 

大きく深呼吸をして

両手を広げ思いっきり上へ伸ばした

 

見上げた空は高く高く

どこまでも青い空が広がっている

 

視界の端では

青々とした木々が風に揺られ踊っている

 

目を閉じれば   ザァー  っと風の駆け回る音

どこかで  チリン  と鈴がなり

どこからともなく 楽しそうに笑う声が耳へと届く

 

大きく息を吸い込むと、

暖かな太陽の光と爽やかな風と楽しげな雰囲気が

体の内を循環していく

 

深く息をついて、それらを己に馴染ませて

ゆっくりと目を開けば

 

そこに広がるのはキラキラとした景色

 

漏れる笑い声をそのままに、私は1歩足を踏み出す

 

「うん。今日もいい1日になりそう」

 


f:id:yomiko-ohanashi:20210419080358j:image


 

 

 

【短編】その場所はあなただけのもの


真っ白いその空間に彼女は1人たっている。
地面は薄く水で覆われていて、時折ピチョンッと跳ねる音がしていた。

「・・・・・・。」

彼女は、ぼぅっと足元を見つめている。
自分の足裏に微かな水の揺らめきを感じながら、己の足元を見つめている。


「やぁ!酷い顔だね。」


突如響いたその声に、彼女はゆっくりと顔を上げる。
いつの間にか、ほんの数メートル先に女がいた。

「ここに誰かがいるなんて初めてで観察してたんだけど、君さっきから1歩も動いてないよね?もしかして死んでるのかい?」

やけに馴れ馴れしく女は彼女へと語りかけそして近寄ってくる。
しかし彼女には女の言葉よりもそれの足元の方が気にかかった。

「あなた、浮いてるの?」

言いながら彼女はその場で足を持ち上げて下ろしてみる。

パシャリ。


音と共に水が跳ね上がり、彼女を中心に波紋が広がっていく。
彼女はそれを確認して、もう一度女へと視線を向ける。

「あぁ、もしかしてなにか見えてる?」

そう言いながら女は足踏をしているが、やはり彼女の足元では水が跳ねたり、波紋が起きることは無かった。

「浮いてはいないさ、私はこれでもしっかりと地に足をつけて生きてる。この土の上にしっかりとね。」

そう言って足を踏み下ろすその先にあるのは白い床に薄く張られた水だけで土の一欠片だって見当たらない。

「なるほど。変な人。」

そう彼女は結論づけた。
それを聞いた女は心外だと言わんばかりに頬を膨らませる。

「あのねぇ、私を変って言うなら君も変なんだからな!っていうか、君にはなにが見えてるの?」

ドンドンと怒ったように足を振り下ろす女に彼女は答える。

「・・・水が。」

「みず?」

「えぇ、水。白い床一面に水が張ってるの。」

彼女の言葉に女は辺りを見回して、そして顎に手を当て「なるほど。」と呟いた。


「ちなみに私はここに茶色い地面がある様に見えるよ。
ほんでそっちには緑色の芝生が生えてるし、あっちには黄色い花がたくさん咲いてる。
見上げれば綺麗な青空がバアーーーっと広がってるんだ。」

女はそっちあっちと指をさしながら説明し最後に両手を広げ満面の笑みで誇らしそうにそう語る。

しかし、彼女の目に映るものは白。白。どこまでも白だけだった。

「・・・良いなぁ。」

ポロリと彼女から言葉が漏れた。
すると女はキョトンと首を傾げる。

「なんで?」

「私の空間には何も無いもの。たくさんの白と、足元の水だけ。」

彼女は視線を足元に移し、ゆっくりと足先で水をかき混ぜた。
ゆらゆらと、彼女の動きに合わせて水面が揺れる。


「真っ白な空間で、君が動くとそこに波紋が広がっていくんだ。」

女の言葉に、彼女は弾かれたように顔を上げた。

「みえたの?」

しかし、女はニヤリと笑い

「いいや。見えないね。だってそこは君の世界だろう?」

と言った。
女はスキップするように彼女の周りをぐるりと回る。

「けれど、想像することはできるよ。
君が踊れば足元では水しぶきが上がり波紋が広がる。どこまでもどこまでも。
白いその空間に広がっていくんだ。」

女の言葉に促されるように、彼女はパシャリと音を立てた。
足元から産まれた波紋が白い空間に広がっていく。
どこまでも。
どこまでも。

「ね?幻想的でとても美しい世界だ。」

彼女は大きく目を見開く。
ここを美しいなんて今まで1度だって思ったことは無い。
けれど今、目の前に広がるその光景は息を止めるほど美しい。

「私たちが見てるのは自分の世界だよ。
見えているのは自分だけ。
でも、見えてるのが自分だけだからこそ


その世界の価値を決めるのは自分だけだ。」


女の言葉が胸に強く強く染み渡る。
波紋が広がるように彼女の中に、どこまでも、どこまでも。

 

 


どれくらいそうしていたのだろう。
ハッと気がつくと、そこには誰もいない。

いつも通り見渡す限り白に包まれている。
自分の呼吸が聞こえるほどに静かで、あの不思議な女は幻だったのかと思うほどに静寂だ。

 

彼女は1人そこにたっていた。
どこまでも白いその空間に彼女はいる。

ふと、彼女の中に染み渡った女の声が彼女の中から聞こえてくる。


パシャリ。


パシャリ。


ひとつ、ふたつと足を踏み出して、「ふふっ」と笑みがこぼれた。


パシャパシャパシャリ。


幻想的で美しいその空間で、彼女は楽しそうに笑いながら


波紋と共に舞っている。


いつまでも。いつまでも。

 

 

 

 

 

 

私よ心に刻め。しっかりと

 

 

私は人見知りだ

加えて、極度の面倒くさがりでもある

 

人と足並みを合わせるのが嫌だって訳では無いけれど、疲れるなと思ってしまうし

 

集団行動も楽しくて好きではあるけれど、人数が増えれば増えるほど気を使うことが増えて面倒だなと思う

 

問題事が起きた時も、誰かに相談するより先に自分で何とかする方が早いと自己完結することが多い

 

人間は矛盾を抱えて生きるものだけれど、私の中の1番の矛盾点はそこだろう

 

人が好きで、人と関わる事を幸せに感じながら

そういう事は面倒くさくて疲れるから極力したくないと思う

 

 

けれど、私の生きる原動力は他者と関わる事にある。

 

両親と会っておしゃべりをした後は、決まって調子がいいし

 

兄弟と討論会をすれば、己の未熟さに気がついてやる気が出るし

 

友達と楽しく話したあとは、何事にも前向きにチャレンジできる。

 

先輩たちや上司の話を聞けば、自分の世界や価値観が広がり物事をもう一度見直してみたりする

 

私の人生の分岐点にはいつも誰かがいる。

私の幸せの中にはいつもみんながいる。

 

私の道を決めるのは私で

私の人生は私だけのものだけれど

 

その私の人生を支えて、見守ってくれる人達が

世界には溢れていることを

 

私は決して忘れてはいけない

 

 

そう、思う今日この頃です

 


f:id:yomiko-ohanashi:20210412103844j:image

その先には

 

「もーーーいーーかーーい?」

 

高くそびえる杉林の中。幼い声が辺りに反響している。

 

「まーーーだーだよーーー!」

 

杉林を分断するようにまっすぐひかれた砂利道が

ジャッ。ジャッ。ジャッ。

と軽い音を立てている。

 

「もーーいーーかーーーーい?」

 

砂利道の両脇には等間隔で石の灯篭が設置されていて、どこか厳かな雰囲気が漂っている。

 

「まーーだーーだよーーーーー!!」

 

長い間そこにあるのか、医師の灯篭には緑色の苔がそこかしこに生えていて彩りを与えている。

 

「もーーいーーーかぁーーい?」

 

先が見えないほど長い長いその道の先は、一体どこに続いているのだろう?

 

「まぁーーだーーだよーーー!!」

 

 

静かな静かなその場所に、楽しそうな幼い声と砂利の軽い音だけが響いていた。

 


f:id:yomiko-ohanashi:20210330103117j:image

 

 

姿なき訪問

 

 

朝起きて、カーテンを開ける

 

太陽の柔らかい光が部屋の中へと降り注ぐ

 

ひとつ、大きく深呼吸して

リビングにある大きなソファーへとダイブする。

 

何の変哲もない天井を見つめてボーッとしていると、窓の外から

 

「ホーホケキョ。」

 

と声がする。

 

「ホケキョ。」

 

なんとなく返してみた。

 

「ホーホケキョ。」

「ホケキョ。」

「ホーホケキョ。」

「ケキョケキョ?」

「ホーホケキョ。」

「ホケキョ。」

 

しばらく姿の見えない可愛いお友達とお話をしていると、窓の外からバサバサッという羽ばたきの音がしてそれっきり声は聞こえなくなった。

 

 

「ホーホケキョ。」

 

いってらしゃいを込めて最後に一言つぶやいてソファーから体を起こす。

 

うーーんと伸びをして、支度を始める。

 

うん。今日もきっと、とてもいい日だ。

 



f:id:yomiko-ohanashi:20210330102940j:image

 

【短編】おともだち

 

「幽霊になったら何がしたい?」

 

唐突にかけられた声に、チラリと横に座る男に目を向ける。

 

「・・・・・・。」

 

「え?無視?無視は酷いよ!」

 

ニコニコ笑う男から視線を本に戻すと、男は隣で大袈裟に身振り手振り使って邪魔してくる。

 

「勝手に隣に座らないでくれる?」

 

鬱陶しさに視線は本に向けたままそう冷たく告げたのだが、男はパァーっと輝かんばかりの笑みをうかべ

 

「僕はさ、僕はさ、空飛んだりこの学校の敷地を壁とかガンガンすり抜けてまっすぐ歩いたりしたいんだよね。何秒で端から端まで行けると思う?まっすぐだから30秒あれば端から端まで行けると思うんだよね僕。」

 

こちらの様子お構い無しでマシンガントークを始めた。

 

「よくさ、女子トイレ除くとか女子の着替えを除くとかあるじゃん。でも、僕それは良くないって思うんだ。例え見えないからってさ、それは良くないよ!絶対!!」

 

「そう、紳士的ね」

 

大袈裟に、身振り手振りを交えながら熱心に話す男に適当に返事を返せば男は嬉しそうに

「そうかな?えへへ。そうかなぁ?」と1人で悶えている。

 

「気持ち悪いからやめて。今すぐ。」

 

眉をしかめてそういえば男は素直におかしな挙動を止めた。

 

「うん、ごめんね。でもおしゃべり楽しいねぇ。」

 

「私は楽しくないわ。嫌な視線が集まるもの。」

 

なおも、ヘラヘラと笑う男にピシャリと言い放ち周囲に視線を巡らせるとそこかしこでヒソヒソ、クスクスと声が聞こえてくる。

 

「ねぇ、あれさぁ」

「しっ!見ちゃダメだよ。頭おかしいの伝染るよ。」

「きもちわるぅい。」

「1人で喋って何やってんだろ。」

「イマジナリーフレンドじゃね?」

 

好き勝手話して嫌な視線を不躾に送ってくる彼らに眉間のシワがいっそう深くなった。

 

「あ、あー。ごめんね。ぼく、でも、」

 

やっと周りの様子に気がついたのか、隣の男がさきほどまでの態度とは打って変わって俯きボソボソと話す。

 

テーブルの上に投げ出されていた手は固く、固く握りしめられまっすぐこちらを見つめていた瞳は今はじっと己の膝あたりをウロウロとさ迷わせていている。

 

「周りの視線が嫌なだけで、別にあんたと話すのが嫌なわけじゃないわ。」

 

ジメジメとした態度があまりにも鬱陶しくてため息とともにそう告げると、男はパッと顔を上げて私の顔をジーッと見つめてきた。

 

なんだか居心地が悪いので視線を逸らし逃げるように手元の本へとグッと顔を近づける。

 

「あのさ!じゃあさ!また、おしゃべりに来てもいい?」

 

明るく、嬉しそうな弾んだ声がすぐ横で響いている。

 

「・・・図書館の出入りは自由でしょ。好きにすればいいじゃない。」

 

それに素っ気なく返せば、男の大きな返事と学校のチャイムが辺りに響いた。

 

「じゃ、じゃあ、また来るね」

 

にこにこと手を振る男に、視線だけで返事をして私も立ち上がる。

 

『 幽霊になったら何がしたい?』

 

男の質問を思い出して、ぽつりと呟く。

 

「何がしたいとか、考えたこと無かったな。」

 

まっすぐ歩きながら、考える。

私ならどうだろうと。

そして、その答えを次会った時あの男と話したらあの大袈裟な男はどんな反応をするだろうか。

 

込み上げる笑みをそのままに、少女はゆっくりと本棚の中へと消えていった。



f:id:yomiko-ohanashi:20210330102631j:image

 

 

 

 

 

 

日常の非日常

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

一定の間隔で、低い音が響いている。   

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

低い低いその振動は私の体をビリビリと揺らしている。

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

いま、私はどこにいるんだろう?

なにをしていたんだっけ?

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

チカチカとまぶたの向こうで光が瞬いている。

あぁ、わたし  目をつぶってるんだ。

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

 

 

 

 

「はい、終わりましたよー」

 

暗いところから引きづり出されて看護婦さんに声をかけられる。

 

ゆっくり開いたまぶたに白い天井とライトが見えた。

 

「ふふっ。」

 

思わず笑ってしまった私に、看護婦さんが不思議そうに首を傾げる。

 

「なんだか、どこかに転送されてるみたいで。

・・・ちょっと楽しかったです。」

 

緩む頬をそのままに初めての体験の感想を告げると、看護婦さんはキョトンとした後すぐににっこりと微笑み返してくれた