おはなしの森

日々を過ごし感じること、思い浮かぶこと。世界はたくさんの物語で溢れている。

【短編】風が届けるいつかの君

 

「いくらなんでも、だらけ過ぎじゃないですか?」

 

「こんな気持ちのいい日に動き回れる人の気が知れないよ」

 

呆れたようにかけられた声にゆっくり目を開きながら応える。

 

「こんなに気持ちのいい日に引きこもってる人の気が知れないですね」

 

軽口に軽口で返してきた彼の奥に見える青い空と白い雲。

大きく開け放たれた窓から入り込む風はさわさわと大変心地よかった。

 

「この心地良さの中に骨を埋めたい。」

 

ぼんやりとした心地のままそう呟けば彼は盛大に顔を顰めた。

 

「その場合、その後の処理は僕がしなくちゃいけないじゃないですか。あなたが何処に骨を埋めようと勝手ですけど僕の目の届かないところにしてくださいね」

 

相変わらず歯に衣を着せぬ彼の様子に「酷いな」と笑うと「というか、そこ邪魔なんでどいてください」と冷たく返されてしまう。

 

それに「はいはい」と言いながらゆっくり体を起こして近くの座椅子に腰をかければ働き者の彼はテキパキと部屋の中を整えていく。

 

『人付き合い向いてないんですよ。そのつもりがなくても、相手を怖がらせてしまうみたいで』

 

強ばった表情で寂しさを瞳へと閉じ込めていた、いつかの彼を思い出す。

 

ぶつぶつと小言を言いながら忙しそうに動き回る彼を眺めて、随分ほぐれたものだと笑みがこぼれた。

 

「本当に、随分お暇なんですね。」

 

そんな私を呆れたように見下ろして、彼がそんなことを言う。

 

「最近の君はいささか私に冷たいんじゃないか?もっと優しくしておくれよ」

 

昔はあんなにこちらを伺うような視線を向けてきていて可愛げがあったのに、今では呆れた視線か冷たい視線が大半だ。

 

それが気心が知れた証拠だとはいえ、なんだか少し寂しく感じてしまう。

少し拗ねたように彼へと視線を向ければ、

 

「対人関係は鏡合わせと言いますからね。」

 

『対人関係は鏡合わせと言うからね』

 

彼の言葉に、

 

「あなたがそう感じるのながら、それはあなたが僕に冷たく接しているからでは?」

 

『相手にそう感じさせているのは、君が相手を怖がっているからじゃないかな?』

 

いつかの己が重なる。

 

 

思わず、ぽかんと彼を見つめていると居心地悪そうに彼が視線を逸らした。

隠されるように動いた彼の耳がほんのり色ずいているのが視界に映る。

 

「・・・あっはははは!!!」

 

溢れ出した愉快な気持ち押し出された笑い声が部屋中に響き渡る。

途端に「うるさいですよ!」と響いた可愛らしい抗議にさらに笑みを深めた。

 

「あぁ、そうか。そうだとも。それは気をつけなくてはいけないね。」

 

くすくす漏れ出す笑みをそのままにそう言えば彼はむっつりと顔を顰めたまま作業に没頭するフリをしている。

 

それを横目に、軽くなった腰を持ち上げて外出の支度をすれば「お出かけですか?」と不思議そうに彼が言うので「君も支度をしたまえ」と声をかける。

 

「え?今日、何かありましたっけ?」

 

慌てたように手帳を開いてスケジュールを確認する彼に収まりかけた笑いが溢れそうになった。

 

「いいや。予定はなかったけれど食事に行こう。

私は、優秀な愛弟子に嫌われたくは無いからね。」

 

 

可愛い愛弟子である彼は一瞬、瞳を見開いて

そして嬉しそうに「もちろん焼肉ですよね?」とばたばた身支度を整える。

 

「可愛い愛弟子がそういうのなら、立派な師匠は応えなくてはいけないね」

 

 

爽やかな初夏の空に彼の歓声が響き、ふわりとやって来た優しい風がそれをどこかへと運んでいった

 

 

 

【お題を使って短編】いつもここで

今週のお題「ホーム画面」

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気がつけば、あなたは私を見てる。
長いこと眺めているわけではないけれど、一日の始まりには必ず私を見るし、電車の中や休憩時間など時間が余ればあなたは私を見つめてる。

わかっているわ。
あなたのお目当ては私では無いのでしょう。
本当の目的は最近お気に入りの動画や中々手に入らないと躍起になって回しているあのガチャや気になるあの子とのやりとり。

私は通過点に過ぎません。
あなたと、あなたのしたい事や興味のある事を繋ぐ道の途中に私が立っている。
ただそれだけの事。

そう。本当にそれだけなの。

けれど、あなたと目が合うたびに心臓が跳ねて
真っ直ぐ射抜くようなあなたの瞳に囚われて
まるで時が止まってしまったのかと錯覚するのです。

あなたの瞳はすぐ私からそらされてしまうけれど、それでも心臓が歓喜に震え、頬が熱く染っていく。

今日は何時もよりたくさん見てくれた。
今日は何時もより長く見てくれてた。

明日は、どれだけ私を見てくれるだろう?
今度は、どのくらい私を見つめてくれるだろうか?

期待に胸を膨らませ、私は何時も待っています。
貴方のことをずっとずっと。

どんな時も
どんな日も

私はここで

ただ、あなたが見つめてくれるのを

待っています。





【短編】椿の花を

小さな頃。

通学路にいつもたっているお姉さんがいた。

お姉さんはいつも道脇にある椿の木を見ていた。

寒くなってきて、赤い花を咲かせる頃になるとお姉さんはそれは嬉しそうに微笑んでいたのをよく覚えている。

そして、花が落ちる頃になると白くて細いその腕を持ち上げて綺麗な手のひらに優しく椿を受け止めるのだ。

愛おしそうに椿へとキスをして、近くの花壇の土の上へとそっと運ぶお姉さんが何故そんなことをするのか不思議でたまらなかった。

ある時、いつものように遠巻きにその光景を眺めているとお姉さんがこちらを振り返る。

「ねぇ、手伝ってくれない?」

突如かけられたその声に私は数秒固まってしまう。

「あ、えと・・・。」

言葉にならない音が口でもごもごしているのを見てお姉さんは困ったように微笑む。

「急に声かけてごめんね。あなたいつも私のことを見てるから興味あるのかなって思ってたの。・・・ほら、見て。私だけじゃ手が足りないと思わない?」

そう言って両手を広げたお姉さんの足元には椿の花が1つ2つと落ちている。

「ね?お願い。」

「・・・・・・。」

落ちている椿とお姉さん。それからお姉さんの後ろで咲き誇る椿を見つめて私は持っていた荷物を道の端へと置いた。

それから落ちてしまっている椿の花を拾い上げ、花壇の土の上へとのせる。

振り返るとお姉さんは嬉しそうに「ありがとう」と笑った。

「なんでこんなことしてるの?」

いつものように隣で椿を受け止めているお姉さんに聞いてみる。

「こんな硬いところに落ちたら痛いし、それに帰れないでしょう?」

よくわからない回答に私がコテリと首を傾げると、お姉さんさんは少し考えてから説明をする。

「・・・・・・行ってきますってお家を出たらただいまってお家に帰るでしょう?この子達のお家はここなの。そっちに落ちてしまったら帰ってこられないわ。この子達は歩けないもの。」

「ふーん。」

わかったような。分からないような。

生返事を返して私は見上げる。

濃い緑の中にポツポツと浮かぶ真っ赤な花を。

それがするりとお姉さんの手の中に、吸い込まれるように落ちていくのを。

「わたし、考えてしまうの。もし自分がそうだったらって。・・・みんな帰るところがあるの。この世界に生きてるものにはみんなあるのよ。けれどごくたまにこの子達みたいに帰れない子達がいるの。迷子になってしまう。・・・きっと寂しくて、恐ろしくて耐えられない。」

語るお姉さんの瞳がスっと私をうつした。

「だから手をのばすの。痛くないように迷わないように。ちゃんと、かえれるように。・・・・・・わたしも、そうして導いてもらえるように。」

真っ黒な力強い瞳が私を映している。

希うような。祈るような。

強い強い想いを込めて。

真っ直ぐとこちらを見つめるその瞳に。

「あ、私。あの、もう行くね!」

何だかとてもいたたまれなくて気まずくて、よく分からないけれど早くここから離れたかった。

慌てて荷物を掴んだその時にお姉さんが「ねぇ。」と呼びかけてくる。

恐る恐る振り返るとお姉さんは困ったように微笑みながら

「お願い。今日のこと、忘れないで。」

そう言った。

「忘れないよ!!私、絶対に忘れない!!」

考えるよりも先に言葉が飛び出た。

そうしなければいけないと思った。

それは、お姉さんがあまりにも悲しそうだったからかもしれないし

強いあの瞳を忘れられるわけが無いと思ったからかもしれないし

強烈な赤が、ぽたりと落ちていく様が可哀想だったからかもしれない

あるいは、その全部か。

理由はよく分からないけれどそれでも、

「ありがとう。」

とお姉さんが泣きそうな顔で笑ったから、きっと正しかったんだと思う。

それから寒い季節になって椿を見かける度にお姉さんを思い出す。

椿を幸せそうに見つめて、白く細い腕を伸ばして、

綺麗な手のひらで優しく受け止めるお姉さんを。

懐かしい記憶を思い出しながら、道路脇に落ちている椿をそっと拾い上げ、柔らかな土の上へそっと置いた。

【短編】ときはなつ


青。

蒼。

碧。

あお。


真白くそびえ立つソレを睨みつけていた数分前とは打って変わって僕はひたすらに腕を動かす。

黄色に、

赤に、

白。


みどり。

時々、黒。

上から下へ。

円を描いて。

叩きつけて、

はね上げる。

一瞬足りとも、脳内に焼き付いたソレを消さないように。

瞬きもせず、薄れる前に。

しかし忠実に再現する

重ねて、削って、混ぜ込んで。

なにかに取りつかれたように一心不乱に練り上げる。

 

・・・やっと1つ。
息を吐く。細く長い息だ。

 

じっと己の吐き出したものを見つめ、呼吸をゆっくりと深く繰り返す。

 

「ねぇ、それ何?」

 

不意にかけられた彼女の声。
いつからいたのか分からないが、そんな事は大した問題じゃない。

 

「知らない。」

 

キャンパスから目を離さず、応える。

 

「急に湧いてきたんだ。溢れて来たから書き留めなきゃと思って。垂れ流しにするには惜しい。」

 

じっくりと、キャンパスを見つめる。
彼女の言葉に答えてはいるが、僕の頭は目の前のソレでいっぱいだ。

 

「まるで貴方がもう一人いるみたい。」

 

「それはそうだろう。これは僕が吐き出したんだから。これは僕だよ。」

 

どうしてだろう。
正確に書き留めたはずなのに。気持ちが悪い。
歪だ。こうではない。これではダメだ。
なんだ?何が足りない?

 

ぐるぐると思考を回して、必死に違和感を探るが、
モヤモヤとした形のないものが溜まって行くだけで一向に捉えることが出来ない。
グッと眉間がよっていき、親指の爪が人差し指の腹を弾く。何度も。何度も。

 

次第に足が落ち着きを無くし、大きな舌打ちが響く。

と、同時に。視界に彼女が映る。
彼女はゆっくりとした足取りで、もう1人の僕へと近づいた。

 

「綺麗だね。こんなにもぐちゃぐちゃに混ざってるのに、なんでこんな綺麗なんだろう?」

 

穏やかに微笑みながら、彼女は撫でる仕草をした。
キャンパスから外れなかった視界が彼女へと移る。
白いワンピースを、纏って僕の大好きな瞳を溢れさせる。

 

「でも、ちょっと窮屈そうだね。もっと広がりたいんじゃない?」

 

そう言って僕を振り返る。
真っ直ぐと向けられた視線は、楽しそうに混ぜられてキャンパスのすぐ後ろの壁を指し示す。

 

「・・・ね?収まりきらなくて溢れ出てる。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

 

彼女の言葉に、視線に促されるように僕はもう一度キャンパスに向かった。

 

 

 

 


「本当に綺麗。あなたの作品はなんでも好きだけれど、コレは特に好きかも。」

 

僕の胸にもたれかけながら彼女はうっとりと呟く。
そんな彼女が愛おしくて僕は腕を回して抱きしめた。

 

「僕もだよ。今までの作品の中でこれが一番好き。」

 

「ふふ。お揃いだね?」

 

僕の言葉に嬉しそうに彼女が振り返る。

 

「あぁ。お揃いだ。」

 

僕も応えて彼女にキスを送る。
そうしてもう一度2人で出来上がった作品に目を向ける。

 

初めに描いたキャンパスから広がるように、壁一面に描かれた『 あお』。

複雑に混ざり合い、暴れ回り、喚き散らすソレを柔らかく包み込み、溶け込むように

『 白』が差し込む。


そう、綺麗に決まってる。
僕がどんなにぐちゃぐちゃでも、ドロドロに溢れ出しても君が

 

ぎゅっと縋り付くように腕に力を込めると彼女はくすくすと笑う。

 

「ふふ。幸せだねー。」

 

「・・・あぁ。」

 


『 白』が僕を幸せにしてくれるんだ。




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【短編】世界はふしぎで溢れてる

 

「ねぇ、何してるの?」

 

かけられた声に優里が振り向くと、そこには同い年くらいの女の子が不思議そうにこちらを見ていた。

優里にはお友達が沢山いるけれど、その子は会ったことがない子だったので優里はキョトリと1つ瞬きをして首を傾げる。

 

「だあれ?」

 

「私はミチ。ねぇ、何してるの?」

 

ミチと名乗った女の子は興味津々といった様子で、しゃがみこむ優里の側へとやって来る。

 

「あのね、不思議だなって見てたの。」

 

「ふしぎ?」

 

しゃがみ込んだまま答える優里の傍に、ミチは不思議そうに同じようにしゃがみ込んだ。

そこには黄色いお花がひとつ。風にゆれている。

 

「お花は砂の上に咲くでしょ?ママもお花育てる時に砂をお店で買うのよ。でも、この子は砂がないのに咲いてるの。なんでかなぁ。」

 

そう、ここは住宅街。

花壇や野原に咲くお花とは違い少女たちの目の前で揺れる花は硬い歩道から住宅の塀に沿うようにニョッキりと顔を出していた。

 

優里はおかあさんのお手伝いでお花を植えたことがある。

お花のごはんがいっぱい入っている砂の中に種を埋めて水をあげるのだ。

種を植えた時にシャベルでポンポンしてはいけない。お花が顔を出す時に「重いよー」と泣いてしまうからだとお母さんが教えてくれた。

 

けれども目の前で揺れるこの黄色いお花は硬い地面からニョッキりと顔を出している。

それが優里には不思議でしょうがなかった。

 

「ほんとだ。不思議だね。」

 

ミチも隣で目を大きく開いて花を見つめる。

 

「ね!不思議だね!!」

 

優里はミチが同じように驚いて、共感してくれたのが嬉しくてにっこりと笑ってミチを見た。

 

「うん!不思議!!」

 

ミチも嬉しそうに優里ににっこりと笑いかける。

そして

 

「わたしもね、不思議なこと知ってるよ。優里ちゃん教えてくれたから、わたしも教えてあげる。」

 

と、言った。

優里はますます嬉しくなって、「ありがとう!」と応える。

するとミチは真っ直ぐと上を指さした。

 

「空の上には宇宙があるんだって。知ってる?太陽もお月様も宇宙にあるの。」

 

「知ってるよ。テレビとか本で見たことあるよ。」

 

ミチの問にコクリと頷いて応える。

 

「絵本もさ、テレビもさ、宇宙って真っ黒なのにどうしてお空は青いんだろう?夜はちゃんと真っ黒なのに。」

 

不思議そうに首を傾げるミチの話しを聞いて、優里もパチクリと瞬きをする。

そして、空を見上げ

 

「ほんとうだ、ふしぎ。」

 

と目を見開く。

 

「ね!不思議でしょ!?」

 

嬉しそうにミチがにっこりと優里に笑う。

 

「うん!!不思議だね!!」

 

優里も興奮したようにミチに笑いかけた。

 

不思議、ふしぎ。不思議!!

 

と2人はケタケタ笑いながら身振り手振りで語り合う。

どれくらいそうしていただろうか?

不意に

 

「優里ー?どこー?」

 

と、お母さんの声がした。

 

「あ、お母さんだ!おかあさーーん!!ここだよーー!」

 

優里は母親の声がする方に呼びかけならがら走りよる。

すると、お母さんは「優里!いた!」といって優里を抱きしめる。

 

「もう!すぐフラフラするんだから。ほら、手をつなごう?優里がいなくなったってお母さんすごく怖かったのよ?」

 

お母さんが困ったようにそう言ったので優里は悪い事をしたと「ごめんなさい」と素直に謝り手を繋ぐ。

するとお母さんは呆れたように笑いながら、

 

「こんなとこで何してたの?」

 

と聞いてきた。優里はさっきまでの話と新しく出来たお友達をお母さんに伝えようと興奮しながら伝えようとする。

 

「あのね、あのね、ミチちゃんが・・・・・・あれ?」

 

しかし振り返ったその場所には誰もいなくて黄色いお花がゆらゆら1つ揺れているだけだった。

 

「え?なんで!?すごい!!ふしぎ!!お母さん不思議だね!!」

 

パァァァッと顔を輝かせて、興奮そのままに母親に抱きつくと、お母さんは「はいはい。そうねー。不思議ねー。」と笑ってくれる。

 

「優里は不思議を見つける天才ね。」

 

そう言って優里の頭を撫でて、帰り道を手を繋いで歩いていく。

優里もお母さんの手に引かれてにこにことご機嫌で歩いていく。

 

楽しそうに笑う優里の声と、お母さんの声が夕暮れの住宅街に染み渡る。

 

「ね!お母さん!!世界はふしぎがいっぱいね!!」

 

 


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【短編】ワスレモノ

 

風に吹かれ緑が揺れている。

緑が揺れると同時にチラチラと木漏れ日の光も踊り、どこか遠くで歌う鳥たちの声が響きあう。

 

思わず、ため息が漏れた。

 

大きく力強く存在しているこの木は、一体いつからここにいるのだろう?

きっと、私が生まれるよりもずっとずっと・・・

 

「おや。珍しいお客さんだねぇ。」

 

のんびりと響いたその声にハッとして振り返るとそこには小さくて可愛いらしいおばあちゃんがにこにこと微笑んでたっていた。

 

「あ、こ、こんにちは。」

 

口を開けて惚けるように立っていたのを見られていたのが恥ずかしく慌てて挨拶をする。

 

「はい。こんにちは」

 

にこにこと笑うおばあちゃんは目の前にある木を優しく撫でている。

なんとなく気まずくて視線をウロウロとさ迷わせるているとおばあちゃんはゆっくりとこちらを振り返り

 

「それで?ちゃんと見つけたかい?」

 

と言った。

 

「え?」

 

なんの事を言っているのか分からなくて見つめるとおばあちゃんはふっと目を伏せた。

 

「ちゃんと見つけなくちゃダメだよ。後悔するからね。ここに来たってことは、それはとても・・・とっても大切なものなんだ。」

 

その様子があまりにも寂しそうで、苦しそうで、体の中にぐるぐると疑問は渦巻いているけれど口を開けてもそれらは外へと出なかった。

仕方なく真っ直ぐ口を噤んでギュッと服の裾を握りしめた。

 

おばあちゃんはゆっくりと動いて木の根元に「よっこらしょっ」という掛け声と共にちょこんと腰をかける。

再度合わせられた瞳には先程のような陰りはなくて、暖かく優しい視線が包み込むように私を見た。

 

「難しく考えることは無いよ。色々複雑に絡み合ってる。そりゃぁ、確かに必要な時もあるよ。けれどそれは後からへばりついてきたものだ。

迷った時。見失った時。それらは複雑になりすぎて私らの目を覆い隠しちまう。」

 

朗々と語られる言葉が、私の中に入ってくる。

真っ直ぐにけれど確実に。私の中に染み込むように。

 

「大切なのは1番奥。何もまとわりついていない最初の気持ち。

 

自分を誇りなさい。

 

貴女の代わりは誰にもなれない。人は皆、誰もが特別な存在なのだから。

 

貴女は、どうなりたいの?その為には何が必要?

 

貴女が貴女であることが、何よりも大切で大事なことよ。」

 

 

風が吹き、枝が揺れる。

チラチラと木漏れ日が踊っている。

暖かい光に包まれて、私の瞳からはポタポタと雫がおちる。

 

胸から湧き出した色んなものが、詰まって引っかかっていたものを全て押し出していく。

 

「相変わらず泣き虫ねぇ。それにうっかりさんだわ。」

 

そんな私を眺め、おばあちゃんはにこにこと微笑んでいる。

 

「あなたは考えることが好きだものね。昔からそう。だからあなたの見る世界が広がればきっと、いつか忘れてしまう事があるかもしれないと思っていたのよ。」

 

優しくて、暖かくて、包み込んでくれるような陽だまりのような瞳。

ふにゃりと笑う顔はどこかお茶目で、可愛らしい。

 

「でも、もう大丈夫よ。なんたって、あなたはーーー」

 

ザァァァァァァ。

強い風が吹き、目の前をいくつもの木の葉が覆っていく。

おばあちゃんはイタズラが成功した時のような顔をして小さく手を振っていた。

 

 

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パチリと目を開けて映るのは見慣れた天井。

身体を起こすと、ポタリと頬から雫がおちた。

 

乱雑に散らかった自分の部屋を見渡し、部屋の壁にポツンと飾られた1枚の絵を見る。

 

大きく、力強く存在している立派な木の絵。

 

生前にもらった祖母が色鉛筆で書いた絵。

どうしてこんな絵がかけるのかと尋ねた私に、祖母は

 

「頑張り屋さんのあなたの為に、特別な魔法をかけて書いたのよ。あなたが大切なものを忘れた時に助けてくれるわ。」

 

なんて少しふざけたように言っていたのを思い出す。

 

「ふふ。」

 

自然と口角が上がり、笑い声がもれる。

 

「本当に魔法使いみたいね。」

 

呟いて、そっと木の根元をなでる。

 

そして大きく息をひとつ吸い込み、思いっきり頬を叩いた。

 

「よし!!!」

 

バタバタと身支度を整えて、カバンを持ち玄関へと立つ。

 

「行ってきます!!!」

 

久々に晴れやかな気持ちで吐き出されたその声に、優しい声が応えてくれた気がした。

 


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【短編】雨上がり

 

青く澄み渡る空。白い雲。
煌々と輝く太陽が降り注ぐ、ジリジリとした熱。

目の前にはひらひらと踊るように動く黄色。


「君は相変わらず、おかしなことを言うね?」

くすくすと楽しげにそう言い放った彼女に少しムッとしてしまう。

「おかしいとか、先輩にだけは言われたくないんですけど。」

「だっておかしいもの。」

そんなこちらの様子が可笑しかったのか、先輩は上機嫌に裾をはためかせながら前を歩いた。
その後ろを着いていきながら、先輩の背中へと声をかける。

「おかしくないですよ。当然の疑問だと思いますけど。きっと先輩を見かけた全員が疑問に思ってますよ。なんであの人レインコートなんか着てるんだろうって。」

「あははははっ!!なんでって!!ふふ。」

再度ぶつけた疑問に先輩は耐えられないとばかりに笑った。
ひとしきり笑って笑って、やっと落ち着き一呼吸置いてから先輩はもう一度こちらに向き直る。

「レインコートを着る理由なんて、雨が降ってるからに決まってるじゃない。」

まっすぐ。強い視線が突き刺さる。
周囲の音がどこか遠くなった気がした。
スっと視線を空へ向ける。

「・・・・・・晴れてますよ?」

そうだ。
今日は朝から本当にいい天気で、今だってジリジリと太陽から放たれた熱に肌を焼かれている。
あまりにもまっすぐに言葉をぶつけて来たので、一瞬不安に思ってしまったが紛うことなき晴れである。

「降ってるよ。」

それでも先輩はそう答える。

「ザーザー。パラパラ。空から落ちてくる雫が、地面を、家を、木々を、私達を、打ちつけるために降ってきてる。」

まっすぐ見つめてくる先輩の瞳はとても力強い。

「・・・降ってるんですか?」

「うん。降ってるよ。」

なのに、なんだか先輩が消えてしまいそうで。

 


とても恐ろしくなった。

 

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理解できないものを目の前にした恐怖に、顔をひきつらせ走り去っていくあの子の背を見送った。
どんどんと小さくなっていくその姿に、先程まで楽しくて愉快で仕方なかった気持ちが急速に消えていく。

代わりに、不愉快な雨の音が強く鳴り響き、私の体を強く打ちつける。


「あめ、強くなった。」

ポツリとつぶやき、レインコートのフードを両手でぎゅっと押さえつけた。
濡れるのは嫌だ。

バチバチと強い音を立てて、雨粒が私を打ちつけるために降ってくる。
高い空から私に向かって一直線に。

「言わないほうが、良かったかな?」

口から漏れ出た言葉は笑ってしまうほどに弱々しく、強く降り注ぐ雨の音に消えていく。


ぐっと奥歯を噛み締め、足を前に進めようとしたその時

バサッ!!!

と大きな音と共に、視界が影に覆われる。


「え。」

 

「良かった。まだいた。」

驚き振り返ると、息を切らしたあの子が得意げな顔で笑っていた。

「雨降ってるならこっちの方がいいですよ。」

息がつまり、急速に視界が滲んでいく。
ポロリと雫が落ちるのと溜まっていた感情が口から溢れ出すのはほぼ同時だった。

今日は土砂降りだ。
レインコートも傘もしてるのに、私はずぶ濡れ。


でも

もう私に、レインコートはいらない。




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