青く澄み渡る空。白い雲。
煌々と輝く太陽が降り注ぐ、ジリジリとした熱。
目の前にはひらひらと踊るように動く黄色。
「君は相変わらず、おかしなことを言うね?」
くすくすと楽しげにそう言い放った彼女に少しムッとしてしまう。
「おかしいとか、先輩にだけは言われたくないんですけど。」
「だっておかしいもの。」
そんなこちらの様子が可笑しかったのか、先輩は上機嫌に裾をはためかせながら前を歩いた。
その後ろを着いていきながら、先輩の背中へと声をかける。
「おかしくないですよ。当然の疑問だと思いますけど。きっと先輩を見かけた全員が疑問に思ってますよ。なんであの人レインコートなんか着てるんだろうって。」
「あははははっ!!なんでって!!ふふ。」
再度ぶつけた疑問に先輩は耐えられないとばかりに笑った。
ひとしきり笑って笑って、やっと落ち着き一呼吸置いてから先輩はもう一度こちらに向き直る。
「レインコートを着る理由なんて、雨が降ってるからに決まってるじゃない。」
まっすぐ。強い視線が突き刺さる。
周囲の音がどこか遠くなった気がした。
スっと視線を空へ向ける。
「・・・・・・晴れてますよ?」
そうだ。
今日は朝から本当にいい天気で、今だってジリジリと太陽から放たれた熱に肌を焼かれている。
あまりにもまっすぐに言葉をぶつけて来たので、一瞬不安に思ってしまったが紛うことなき晴れである。
「降ってるよ。」
それでも先輩はそう答える。
「ザーザー。パラパラ。空から落ちてくる雫が、地面を、家を、木々を、私達を、打ちつけるために降ってきてる。」
まっすぐ見つめてくる先輩の瞳はとても力強い。
「・・・降ってるんですか?」
「うん。降ってるよ。」
なのに、なんだか先輩が消えてしまいそうで。
とても恐ろしくなった。
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理解できないものを目の前にした恐怖に、顔をひきつらせ走り去っていくあの子の背を見送った。
どんどんと小さくなっていくその姿に、先程まで楽しくて愉快で仕方なかった気持ちが急速に消えていく。
代わりに、不愉快な雨の音が強く鳴り響き、私の体を強く打ちつける。
「あめ、強くなった。」
ポツリとつぶやき、レインコートのフードを両手でぎゅっと押さえつけた。
濡れるのは嫌だ。
バチバチと強い音を立てて、雨粒が私を打ちつけるために降ってくる。
高い空から私に向かって一直線に。
「言わないほうが、良かったかな?」
口から漏れ出た言葉は笑ってしまうほどに弱々しく、強く降り注ぐ雨の音に消えていく。
ぐっと奥歯を噛み締め、足を前に進めようとしたその時
バサッ!!!
と大きな音と共に、視界が影に覆われる。
「え。」
「良かった。まだいた。」
驚き振り返ると、息を切らしたあの子が得意げな顔で笑っていた。
「雨降ってるならこっちの方がいいですよ。」
息がつまり、急速に視界が滲んでいく。
ポロリと雫が落ちるのと溜まっていた感情が口から溢れ出すのはほぼ同時だった。
今日は土砂降りだ。
レインコートも傘もしてるのに、私はずぶ濡れ。
でも
もう私に、レインコートはいらない。