私のお墓の前で泣かないでください。
そこに私はいません。
学生の時に習った有名なあの曲が頭の中でリフレインする状況になるなんて、生前の私はちっとも思っていなかったでしょう。
もっとも、
私の場合は風にすらなれていないのだが。
「ん〜、あれぇ?どこにやったかなぁ?」
ものが溢れかえる部屋の中で、ゆるい部屋着を着た女性が困り顔であちこち何かを探し回っている。
その様子を私たちはただただ見つめることしかできない。
「絶対、部屋にはあると思うんだよな。外に持ち出してないし」
女性はうんうんと唸りながらものを引っ張り出して諦めずに捜索を続けている。
私とこの女性に面識はない。全くの赤の他人だ。
もっというなら、同じくここで彼女を見つめている幽霊仲間たちにも知り合いは一人もいない。
そう。幽霊仲間。
仲間とは言ったものの、彼らと言葉を交わしたことは1度もない。
何度か声をかけてみたことはあるが、反応が返ってきたことが無いのだ。
正直、ぼんやりと部屋の主を見つめる様子は不気味で怖すぎる。
そんな不気味な存在たちとぎゅうぎゅうにすし詰め状態であるのだから笑えない。
「まじかー!どうしよっかな?明日必要なんだよー!」
女性は半ば半泣きになっているが、泣きわめきたいのこちらである。
この世に未練なんてない私は、とっとと成仏したいのだ。
それが何が悲しくて意思疎通も出来ない他人と家具の隙間にすし詰めにされて、赤の他人の生活を見守らなきゃいけないんだ。
神様仏様。どうか教えて欲しい。生前の私は一体どんな罪を犯したというのですか?
自覚が全くないから罰を受けているのですか?
「しょうがない。新しく買うか。」
『ものを増やすな!掃除しろ!!!』
ヒュンッ
バンッ
「『・・・え?』」
あんまりにも我慢できなくて女性への文句を叫んだら、何かが壁へと飛んでいった。
「ど、・・え?なんで??なに?こわっ」
戸惑い、狼狽える女性を横目に私はにんまりと口角をあげた。
『使ったものは元の位置に戻せ!脱いだ服をその辺に落とすな!洗濯機に入れろ!!ものを端に寄せるだけじゃ掃除とは言わない!せめて掃除機をかけろ!!というか家具の配置どうなってんだよ!気持ち悪い!!なんで変な隙間だらけなの!?全部の隙間に幽霊すし詰めなんですけど気がついてます!?気づいてないですね?気づいてないからこうなんだ!!何とかして!!因みにあんたが探してるハサミは冷凍庫の中だよ!暑いから冷やして使うとか意味わからんこと言ってしまってだろうが!?酒は程々にしろ!!』
溜まりに溜まっていた不平不満を大声で吐き出す度に、部屋の中をヒュンヒュンとものが飛び交う
「なになになになに!?こわい!!!どうなってんの!!」
女性は部屋の中にしゃがみこみ、ガタガタと震えている。
『今度にしよう、今度にしようっていつ掃除をするんだ!?今やれ!!今すぐやってくれ!!この隙間を無くしてくれよ!!私は成仏したいんだってば!!!!』
胸の内に燻っていたものを全て吐き出したその瞬間、隣の棚がとうとう音を立てて倒れていった。
「やだ!むり!!こわい!!!」
部屋の主である女性は悲鳴をあげて玄関を開け放ち飛び出していき、私はようやく久方ぶりの自由を味わえた。
『やったーーー!!!うごけるー!!』
家具の隙間だったところから抜け出して、開け放たれた玄関から外へと出ていく。
ああ、やっと、やっと成仏できる。
大きな達成感と晴れやかな気持ちで私はようやく光の中へと溶けていった。
ーーーーーーーーーーーー
「あんたが掃除を真面目にするなんて珍しいね」
「幽霊は隙間にいるらしいよ。むり。こわい」
驚いた様子でこちらを見つめる友人を横目に黙々と作業を進めていく。
「幽霊なんか絶対、いる訳ないって言ってなかった?」
私の言葉に不思議そうに首をかしげた友人をまっすぐ見つめて私は真剣に言葉を伝えた。
「あのね、幽霊は本当にいるよ」

