「いくらなんでも、だらけ過ぎじゃないですか?」
「こんな気持ちのいい日に動き回れる人の気が知れないよ」
呆れたようにかけられた声にゆっくり目を開きながら応える。
「こんなに気持ちのいい日に引きこもってる人の気が知れないですね」
軽口に軽口で返してきた彼の奥に見える青い空と白い雲。
大きく開け放たれた窓から入り込む風はさわさわと大変心地よかった。
「この心地良さの中に骨を埋めたい。」
ぼんやりとした心地のままそう呟けば彼は盛大に顔を顰めた。
「その場合、その後の処理は僕がしなくちゃいけないじゃないですか。あなたが何処に骨を埋めようと勝手ですけど僕の目の届かないところにしてくださいね」
相変わらず歯に衣を着せぬ彼の様子に「酷いな」と笑うと「というか、そこ邪魔なんでどいてください」と冷たく返されてしまう。
それに「はいはい」と言いながらゆっくり体を起こして近くの座椅子に腰をかければ働き者の彼はテキパキと部屋の中を整えていく。
『人付き合い向いてないんですよ。そのつもりがなくても、相手を怖がらせてしまうみたいで』
強ばった表情で寂しさを瞳へと閉じ込めていた、いつかの彼を思い出す。
ぶつぶつと小言を言いながら忙しそうに動き回る彼を眺めて、随分ほぐれたものだと笑みがこぼれた。
「本当に、随分お暇なんですね。」
そんな私を呆れたように見下ろして、彼がそんなことを言う。
「最近の君はいささか私に冷たいんじゃないか?もっと優しくしておくれよ」
昔はあんなにこちらを伺うような視線を向けてきていて可愛げがあったのに、今では呆れた視線か冷たい視線が大半だ。
それが気心が知れた証拠だとはいえ、なんだか少し寂しく感じてしまう。
少し拗ねたように彼へと視線を向ければ、
「対人関係は鏡合わせと言いますからね。」
『対人関係は鏡合わせと言うからね』
彼の言葉に、
「あなたがそう感じるのながら、それはあなたが僕に冷たく接しているからでは?」
『相手にそう感じさせているのは、君が相手を怖がっているからじゃないかな?』
いつかの己が重なる。
思わず、ぽかんと彼を見つめていると居心地悪そうに彼が視線を逸らした。
隠されるように動いた彼の耳がほんのり色ずいているのが視界に映る。
「・・・あっはははは!!!」
溢れ出した愉快な気持ち押し出された笑い声が部屋中に響き渡る。
途端に「うるさいですよ!」と響いた可愛らしい抗議にさらに笑みを深めた。
「あぁ、そうか。そうだとも。それは気をつけなくてはいけないね。」
くすくす漏れ出す笑みをそのままにそう言えば彼はむっつりと顔を顰めたまま作業に没頭するフリをしている。
それを横目に、軽くなった腰を持ち上げて外出の支度をすれば「お出かけですか?」と不思議そうに彼が言うので「君も支度をしたまえ」と声をかける。
「え?今日、何かありましたっけ?」
慌てたように手帳を開いてスケジュールを確認する彼に収まりかけた笑いが溢れそうになった。
「いいや。予定はなかったけれど食事に行こう。
私は、優秀な愛弟子に嫌われたくは無いからね。」
可愛い愛弟子である彼は一瞬、瞳を見開いて
そして嬉しそうに「もちろん焼肉ですよね?」とばたばた身支度を整える。
「可愛い愛弟子がそういうのなら、立派な師匠は応えなくてはいけないね」
爽やかな初夏の空に彼の歓声が響き、ふわりとやって来た優しい風がそれをどこかへと運んでいった

