「寒いのは大嫌いだけど、冬の空は好き。」
肌に突き刺さるような冷たい風を受け、頬を赤く火照らせた君がキラキラとした瞳で見上げながらそう言った。
「空なんていつも同じじゃない?」
と私が言えば「えー。全然違うよー。」と君はころころと笑う。
笑う度に白い煙が生み出され陽の光に照らされてキラキラと光った。
「冬の空は空気が澄んでるからお空がとっても高く感じるの。夜空なんてね、すごいよ!こーんなに沢山お星様がいたんだなって嬉しくなる。」
楽しそうに身振り手振りを使って話す君が眩しくて、目を細める。
君はきっと知らなかっだろうな。
「いつか、あなたとどこかでキャンプをして一緒に星空観察するのが夢なの。」
楽しそうに話す君の言葉に、仕草に、私は心臓を絞られているような心地がしていた事も。
「2人で夜空を見上げてね、暖かいココアを飲みながら綺麗だねってお喋りをするの。」
同じように感じながらも君が必死で明るく振舞ってくれていた事も。
「パチパチ鳴ってる焚き火でマシュマロ焼いてとろとろだーとか大はしゃぎして、ふふっ。想像だけでも楽しいね。」
毎日、君が一人で泣いている事も。
お医者さんに何とかしてくださいって詰め寄っていた事も。
「ね!きっと行こうね!約束!!!」
あの時、泣き叫びたいくらいの感情を押し殺して笑っていた事も。
全部全部、私が知っているって事。
君は知らなかっだろうな。
そして、それに私がどれ程救われていたのか。
君の存在が私にどれ程希望を見せてくれていたのか。
きっと君は知らないんだ。
だから、そんなに泣いているんでしょう?
「・・・一緒に、来たかったのに。ごめん。」
『一緒にいるよ。』
誰にも届かない声で返事をして、ふらふら山奥へ進む君の後をついていく。
『っていうか、何も持たないで来るなんて、キャンパー失格じゃない?』
「ごめん。・・・ごめんなさい。」
届かぬ軽口もボソボソと紡がれる謝罪に呑み込まれていく。
一段と冷える夜の山。
懐かしいその山道を私と君は歩いてる。
いつかの約束を果たすため。
『ついたね。・・・懐かしい。』
私にとっては随分と懐かしくなってしまったその場所は、記憶の中より少しだけ荒れていた。
『子供たちの遊び場だったのに、もう誰も来なくなっちゃったんだね。』
私が感傷に浸っている間も、彼女はふらふらと進み続ける。
開けたその場所を真っ直ぐと。
「ごめん。・・・ごめん。・・・ごめん、なさい。」
私との、約束を果たすため。
君の足がその先を踏みしめるその前に、私は思いっきり彼女を引き倒した。
『ねえ!!見て!!!』
倒れた君の目の前に広がる宇宙。
私と君が見上げる、満天の星空。
「・・・星、・・・綺麗だね。」
両手を伸ばし、震える声でそう言った彼女に私は笑う。
『ね!綺麗だね!』
焚き火も、マシュマロも、ココアもないけれど。
『あの時言わなかったけれど、私も冬好きだよ。』
私は彼女へと話しかける。
今ならきっと、届くと信じて。
『だって冬の寒さが厳しいほど、訪れる春が暖かくて愛おしく感じるでしょう?』
すすり泣く彼女の声が夜の山に響き渡る。
山の下から彼女を探す人達の声も微かに届く。
きっと、もう。大丈夫。
『約束、ちゃんと果たしたんだから。ちゃんと前に進むんだよ。』
触れられない彼女に寄り添ってふわりと抱きしめる。
『私はずっと、あそこにいるから。』
迎えに来た風に乗って舞い上がり、小さくなっていく彼女を見下ろすと彼女の母親が駆け寄るのが見えた。
どうか、私の大好きな親友に暖かい春が訪れますように。