澄みわたるような美しい青をどんよりとした雲が覆い隠している。
いつもは目が開けられないくらい眩しい空からは優しすぎる淡い光が降り注いでいる。
「何してるの?」
いつの間にかそばに来ていた、ゆきに「見て。」と頭上を指させば彼女は「曇ってるねぇ。」と軽く返してきた。
じっと蠢く雲と淡い光を眺め、そしてゆきへと視線を向ける。
「明るい。」
「そうかな?曇ってるからいつもより暗くない?」
「でも、夜より明るい。」
「朝だからね。」
「うん。明るい。」
「そうだねぇ。」
「あんなにたくさん雲が邪魔してるのに、夜じゃない。」
僕の言葉にゆきはぱちくりと目を瞬かせ、ゆっくりと空を見上げた。
「・・・たしかに。」
「明るくて、すごい。」
「・・・・・・うん。すごいね。・・・そんな風に考えたこと無かったや。」
「僕はいつも思ってた。すごいなって。」
「君のそういう所本当にすごいって私も思ってるよ。」
「僕も、」
言いかけて口を閉じる。
「うん?なに?」
ゆきが不思議そうに首を傾げ続きを促すから、もう1度上を見上げてグッと拳を握る。そして再度ゆきへと向き直って口を開いた。
「僕も、あんな風になりたい。邪魔されても、隠されても、ちゃんと光が届けられるように。」
「・・・。うん。きっとなれるよ。」
ふわりと笑いながらも少し悲しそうにそう言ってくれた、ゆきに僕は慌てて答える
「それで、僕は、ゆきも。・・・ゆきもなれると思う。」
僕の言葉に、ゆきは驚いたように一瞬目を見開いてそして気まずそうに目を伏せた。
ゆるりと白い両手を不安そうに握りしめ、ゆっくりと空を見上げた。
僕も同じように空を見上げる。
空はどんよりとした雲におおわれている。
けれど降り注ぐ淡い光と蠢く影が、その分厚い雲の向こうに高く澄みわたる青い空と煌々と輝く太陽が確かに存在していることを証明している。
「・・・なれるかな。わたしにも。」
小さな震えた声が僕の耳に届いた。
「なれるよ。僕たちにも。」
分厚い雲を睨みつけるように、はっきり力強く答える。
ザァーっと吹いた冷たい風が僕たちを勇気づけるように体を叩いていった。