「まま、見て!クジラさんだよ!!」
ガタンゴトンと心地よく揺れるまどろみの中、興奮気味の高い声が車内に響いた。
「まーくん。しー。」
慌てた様子のお母さんらしき人が慌ててたしなめるも子供は「ねぇ、見て!まま、あれ、あれ!」としきりに窓の外を指さしている。
何となくぼんやりした頭のまま子供の指し示している方へと視線を向ければ
気持ちの良いくらい真っ青な空を大きな白いクジラがゆっくりと泳いでいる。
「わぁ。本当だ。大きいクジラだ。」
思わずポロリと言葉がこぼれ落ち、それに気づいた子供が嬉しそうに
「ね!大きいクジラさんだよ!!僕が見つけたの!」
と笑った。
「そうなんだね。すごい、大発見だね。」
私が褒めるようにそう返せば子供はなおのこと嬉しそうにくふくふと笑う。
「うるさくしてすみません。」
少し疲れた様子の子供の母親が申し訳なさそうに謝って来たので私はとんでもないと首を振る。
「疲れていましたがお子さんのお陰でとても癒されました。・・子供って凄いですね。自分の視野が狭まっていたことに気がつけました。クジラは、空も泳げるんですね。」
再度見上げれば四角い窓の外を悠々と泳ぐ大きなクジラ。
「なんだか、自分の悩みなんてどうでも良くなりました。ありがとうございます。とても素敵なお子さんですね。」
素直に思ったことを口にすれば、くしゃりと顔を歪めた母親が嬉しそうに「ありがとうございます。」と呟いた。
ガタンゴトンと揺れる電車の中、楽しそうな子供の声が響いている。
そしてそんな車窓から暖かく見守るように寄り添い泳ぐ大きな白いクジラがふわりと青い空の中に溶けていった。