忘れられない景色がある。
燃え盛るような赤い夕日をバックに、あの人が立っていて、数メートル離れた私がその光景を眺めていることも気づかず私に背を向けていた。
普段は大きく頼りがいのあるその背中が、真っ直ぐ凛とたっているその体が、赤い光に包まれてなんだかとっても小さく見えた事にとても動揺したことをおぼえている。
同時に少しだけ安心もした。
あぁ、この人もちゃんと人間なんだなと。
この人も弱いところがあるのだと。
そんな当たり前のことを、私はその時初めてようやく理解したのだ。
だってあなたはいつも完璧で、ダメダメな私とは全然違って、私はいつも大きな大きなその背中を追いすがるように走っていた。
どれだけ走ろうとちっとも縮まらないその距離に、いつしか私は追いかけるのをやめてしまった。
それでもあなたはいつも、私の視界にいた。
それくらい大きくて大きくて。
あなたの背中の影は居心地がいい。
そう思えるようになるのにそんなに時間はかからなかった。
でも、そんなのあたり前だったのね?
大きくて安心する影を、あなたは一生懸命作ってくれていたんだわ。
私はずっと背中を見てると思ってた。
あなたは一度も私を振り返ってくれないと。
でも、そうじゃなかったのね?
大きく、大きく、あまりにも大きいから気が付かなかったけれどあなたは最初からずっと私の事を見ていてくれたんだわ。
馬鹿な人。不器用でどうしようもない。
一言、声をかけてくれたら気がつけたのに。
それだけで良かったのに。
本当に馬鹿だわ。
あなたも、そして私も。
まだ間に合うかしら?
こんなに時間がかかってしまったけれど、あなたはまだこちらを向いてくれてる?
こんなにどうしようもない私をあなたはまだ愛してくれるかしら?
声なら私がかければいいの。
あなたがかけてくれなくても、私から。
さぁ、勇気をだして。
もう一度。
あの時のようにもう一度、あなたに駆け寄ってみよう。
そうしたら、きっと、
あなたはあの優しい瞳を私に向けてくれるのでしょう?