私は、あなたのそばにいつもいる。
あなたがこの世に産まれ落ち、「おぎゃあ」と声を上げたその時に私は産まれた。
小さな体全部を使って「ここに居るよ」と叫んだあなたに、私は意味もわからず涙を零した。
それからはずーっと一緒。
初めての寝返りも、
初めて立ったときも、
初めて言葉を喋った時も、
最初の頃は、たくさんの初めてに私は毎日泣いてばかりだった。
何故、そうなるのか。
それがわかったのは、あなたが大きくなって、1人で色んな事が出来るようになった時。
世界が広がってキラキラした瞳で飛び出したあなたが、濁った瞳で耳を塞ぎ世界を拒絶してしまったあの時。
私は今までのように涙を零した。
けれど、それはいつもとは違う涙。
心臓がギュッと絞られて、息が吸えないほど苦しかった。
どんなに声をかけようと、どんなに優しく抱きしめようと私の想いは届かない。
ひとりじゃない。ひとりじゃないのよ。
私はいるよ。ここにいるよ。
聞こえないとわかっていても、それでも叫ぶのをやめられなかった。
その時にようやく私は気がついたの。
あぁ、私。
あなたを愛してるんだわ
って
私は全部知ってるわ。
あなたがどんな風に生きてきたのかも
あなたがどれだけたくさんの事を想ってきたのかも
全部全部。私は知ってる。
あなたの傍で一緒に見ていたもの。
私は誰にも見えないけれど、それでも私は確かにあなたのそばに一緒にいたの。
だから、大丈夫よ
「お迎えかい?」
ゆっくりとまぶたを開いたあなたは私の姿を初めて見る。
「・・・えぇ。」
私の瞳から涙が零れ、ポタリと彼女の頬に雫が落ちた。
彼女はもう一度ゆっくり瞬きをしてそうしてしっかりと私の目を見つめ返す。
「不思議ね。あなたとはじめましてなのに。なんだか初めてあった気がしないわ。」
「初めましてじゃないわ。ずっとそばにいたの。」
キョトンと不思議そうにしている彼女に優しく笑って手を差し伸べる。
「さあ、一緒に帰りましょう。」
初めて重ねられた掌にまた涙がポロリと溢れ出す。
ギュッと握られた暖かい手。
「離さないでちょうだいね。」
「大丈夫よ。可愛い子。私がちゃんと連れていくわ。」
迷わない様に。苦しまないように。
あなたと一緒に帰る事。
それが私に与えられた役目だもの。