「ねぇ、何してるの?」
かけられた声に優里が振り向くと、そこには同い年くらいの女の子が不思議そうにこちらを見ていた。
優里にはお友達が沢山いるけれど、その子は会ったことがない子だったので優里はキョトリと1つ瞬きをして首を傾げる。
「だあれ?」
「私はミチ。ねぇ、何してるの?」
ミチと名乗った女の子は興味津々といった様子で、しゃがみこむ優里の側へとやって来る。
「あのね、不思議だなって見てたの。」
「ふしぎ?」
しゃがみ込んだまま答える優里の傍に、ミチは不思議そうに同じようにしゃがみ込んだ。
そこには黄色いお花がひとつ。風にゆれている。
「お花は砂の上に咲くでしょ?ママもお花育てる時に砂をお店で買うのよ。でも、この子は砂がないのに咲いてるの。なんでかなぁ。」
そう、ここは住宅街。
花壇や野原に咲くお花とは違い少女たちの目の前で揺れる花は硬い歩道から住宅の塀に沿うようにニョッキりと顔を出していた。
優里はおかあさんのお手伝いでお花を植えたことがある。
お花のごはんがいっぱい入っている砂の中に種を埋めて水をあげるのだ。
種を植えた時にシャベルでポンポンしてはいけない。お花が顔を出す時に「重いよー」と泣いてしまうからだとお母さんが教えてくれた。
けれども目の前で揺れるこの黄色いお花は硬い地面からニョッキりと顔を出している。
それが優里には不思議でしょうがなかった。
「ほんとだ。不思議だね。」
ミチも隣で目を大きく開いて花を見つめる。
「ね!不思議だね!!」
優里はミチが同じように驚いて、共感してくれたのが嬉しくてにっこりと笑ってミチを見た。
「うん!不思議!!」
ミチも嬉しそうに優里ににっこりと笑いかける。
そして
「わたしもね、不思議なこと知ってるよ。優里ちゃん教えてくれたから、わたしも教えてあげる。」
と、言った。
優里はますます嬉しくなって、「ありがとう!」と応える。
するとミチは真っ直ぐと上を指さした。
「空の上には宇宙があるんだって。知ってる?太陽もお月様も宇宙にあるの。」
「知ってるよ。テレビとか本で見たことあるよ。」
ミチの問にコクリと頷いて応える。
「絵本もさ、テレビもさ、宇宙って真っ黒なのにどうしてお空は青いんだろう?夜はちゃんと真っ黒なのに。」
不思議そうに首を傾げるミチの話しを聞いて、優里もパチクリと瞬きをする。
そして、空を見上げ
「ほんとうだ、ふしぎ。」
と目を見開く。
「ね!不思議でしょ!?」
嬉しそうにミチがにっこりと優里に笑う。
「うん!!不思議だね!!」
優里も興奮したようにミチに笑いかけた。
不思議、ふしぎ。不思議!!
と2人はケタケタ笑いながら身振り手振りで語り合う。
どれくらいそうしていただろうか?
不意に
「優里ー?どこー?」
と、お母さんの声がした。
「あ、お母さんだ!おかあさーーん!!ここだよーー!」
優里は母親の声がする方に呼びかけならがら走りよる。
すると、お母さんは「優里!いた!」といって優里を抱きしめる。
「もう!すぐフラフラするんだから。ほら、手をつなごう?優里がいなくなったってお母さんすごく怖かったのよ?」
お母さんが困ったようにそう言ったので優里は悪い事をしたと「ごめんなさい」と素直に謝り手を繋ぐ。
するとお母さんは呆れたように笑いながら、
「こんなとこで何してたの?」
と聞いてきた。優里はさっきまでの話と新しく出来たお友達をお母さんに伝えようと興奮しながら伝えようとする。
「あのね、あのね、ミチちゃんが・・・・・・あれ?」
しかし振り返ったその場所には誰もいなくて黄色いお花がゆらゆら1つ揺れているだけだった。
「え?なんで!?すごい!!ふしぎ!!お母さん不思議だね!!」
パァァァッと顔を輝かせて、興奮そのままに母親に抱きつくと、お母さんは「はいはい。そうねー。不思議ねー。」と笑ってくれる。
「優里は不思議を見つける天才ね。」
そう言って優里の頭を撫でて、帰り道を手を繋いで歩いていく。
優里もお母さんの手に引かれてにこにことご機嫌で歩いていく。
楽しそうに笑う優里の声と、お母さんの声が夕暮れの住宅街に染み渡る。
「ね!お母さん!!世界はふしぎがいっぱいね!!」