はぁっと吐き出したため息が、白い煙となって空へと上がっていく。
肌を刺す風たちは悪戯に髪を巻き上げて通り過ぎる。
ぼんやりと眺める青空は高く澄み渡っているのに、その下にいる俺たちはなんだかどんよりとしたものに浸ってしまっている。
若い頃はがむしゃらにもがいて抜け出そうとしていたけれど月日が流れるにつれ、抵抗する気は緩やかに死んでいった。
今ではもう、こうしてぼんやりとため息の行先を眺めるだけだ。
「なんだったんだろうな。俺の人生は。」
ポツリと呟いたボヤキがふわりと空気に溶けていく。途端にずしりと体を押さえつけるなにかの質量が増した気がした。
「あら!それを決めるのはあなたじゃないわよ。」
唐突に響いた軽やかな声に、のろのろと視線を動かせばいつの間にか隣には女学生が座っていた。
「人生の意味なんて、所詮生きている私たちには関係ないことよ。それは私たちが死んだずっとあとの人が勝手に見出すものだもの。」
にこにこと話す女学生は楽しそうに足をぶらぶらと揺らしながらこちらを見つめている。
「だからそんな事、生きている私達が考えたってしょうがないわ。そんな事より考えなきゃいけないことが沢山あるもの。」
「・・・どんな事だ。」
ペラペラと喋る女学生にのそりとそう返せば、彼女は嬉しそうに頬を緩ませた。
「どんな美味しいものを食べようかしら?とかこの後どこへ行こうかしら?とかこの先どんな素敵なものを見つけられるかしら?とか考えれば考えるほど出てくるわよ!嫌ねぇ。とっても忙しいわ。」
全く嫌そうでは無い顔をしてそんな事を話す彼女にふっと息がこぼれる。
そんな俺の様子に気が付かず、楽しそうにどうでもいい事を羅列していく彼女を眺めていると不意に輝かんばかりの笑顔でこちらを振り返った彼女に息が詰まった。
「ね?あなたと過ごす時間はいつも考えることがたくさんで困ってしまうわ。」
ほけほけと幸せそうに微笑む皺だらけの顔を見つめ、目を細める。
「・・・そろそろ、行くか。」
そう呟けば
「ええ。時間がもったいないものね。」
と、嬉しそうな声が帰ってきた。
皺だらけの手を重ね合わせてゆっくりと立ち上がり歩き出す。
楽しそうにお喋りしている妻と並んで2人。
体は相変わらず重くて動かしずらかったが、どんよりとした心地はいつの間にか消えていた。