死ぬことは恐ろしい
日々身体が衰え、朽ちていくのを実感するのも
今ある意識が消えてなくなってしまうことも
恐ろしくて、恐ろしくて
その先にもきっと何かがあるはずだと夢想して
みんなそうだと、そうあるべきだと達観して
死に対する無知の恐怖へと立ち向かう
そしてある時誰かが言った
「死なない身体を手に入れよう。私たちにはできるはずだ。」
彼らは縋る
強大な恐怖から逃れる術に
禁忌とされる不老不死という存在に
そうして長い長い年月を重ね、そこへと辿り着いた
人は死ななくなった
不老不死を手に入れた
膨大な、途方もない時間の中へと投げ出された
何故、頑張るのかわからなくなった
何を糧に生きればいいのかわからなくなった
生きれば生きるほど、気力がゴリゴリ減っていく
生きるがなんなのか分かるものなど、どこにもいなくなった
そしてまた、誰かが言った
「こんなのは生物として正しくない。死なないのは生きてないのと同じだ。」
彼らは縋った
気が触れるほどの長い時を終わらせられる術に
生きる事、死ぬこと、そして己自身の存在に意味を見いだせることを
時間は沢山あった
長い長い時を重ねて、ようやく彼らはたどり着く
正しい人のあり方に
生きて、死ぬ
そんな夢のような人生に
彼らは言った
「もう二度と同じ過ちを犯さないよう。不老不死について触れてはいけない」
こうして不老不死は禁忌とされた
けれど彼らは知らない
始まり終わり、短いサイクルの中で生きるものに
その恐怖は伝わらない
伝わらないのだ
「死なない身体を手に入れよう。私たちにはそれが出来るはずだ」
END