とある天才小説家が主人公の小説を読んだ事がある。
複雑な家庭で育って、不幸のどん底みたいな日々を這いずって書き上げた小説が高い評価を経て一躍有名作家になる。
そうして幸せな日々が少しづつ主人公へと訪れる。
けれど、幸せになればなるほど主人公は筆を取れなくなる。
担当編集者さんが彼女へと言った
「お前は幸せになっちゃいけない」と。
当然主人公は苦悩する。
そして迫られる、つかみかけてる幸せと小説を描き続ける日々の選択を。
私のこの小説を読んだ時、愕然としてしまった。
こんなに恐ろしい作品があるのかと震えた。
趣味とはいえ、小説を書いている私にとってその本はとても恐ろしい作品だった。
故に、その作品は私の心に強く強く根付いている。
筆が進まない時、頭の中を過ってしまう。
私にとってこの作品は二度と読みたくないトラウマ作品になってしまったけれど、私が小説を書く限り忘れられない作品にもなった。
誰かの心を掴む素晴らしい作品であると思う。
私もいつかそういう作品を作りたいと思う。
誰かの心の中に寄り添い存在し続けるような作品を。
いつか、この作品の恐怖を乗り越えることが私の夢です。