【未来・十字架・恩返し】
崩れた建物の中にある大きな大きな十字架の前。
キラキラと色とりどりの光がチラつくその場所で一人の少女が熱心に祈りを捧げています。
「なにをしてるの?」
一人の男の子が少女へと声をかけました。
「許しを乞うているのです。」
祈り続けながら少女は答えます。
「なにか悪いことしたの?」
男の子は少女の隣へと座り話しかけ続けました。
「私ではありません。」
ゆっくりと目を開き、少女は少年を見つめます。
「私の恩人が無知ゆえに神様を怒らせてしまったのです。」
「お姉さんがやったんじゃないのに、お姉さんが謝るの?変だよ。自分で謝らなきゃ。」
少年の言葉に少女は微笑みます。
「ええ。けれど彼はもう謝ることが不可能なんです。」
少女はもう一度十字架に向けて祈りの姿勢を取り目を瞑りました。
「私が祈って、どれほど効果があるものか分かりません。けれどやらずにはいられないのです。
もし、私の行いで彼と出会えなくなってしまったとしても。それでも、私は彼に報いたい。」
「・・・すごく大事な人なんだね。」
あまりにも熱心な様子に少年はポツリと返しました。
「はい。とても。私に、生きることを教えてくださいました。」
少年は一心に祈る少女をじっと見つめて、おもむろに立ち上がります。
「待ってて!僕、お花持ってきてあげる。それで、僕も一緒に祈るよ。そしたら、神様はもっと許してくれるかもしれない!」
そう言ってお気に入りのお花畑の方へかけていきました。
「えぇ。・・・えぇ。きっと、これで許していただけます。」
見送った少女の目から、ポタリと雫が地面へと落ちて地面にパシャリと消えていきました。
「持ってきたよ!!・・・・・・あれ?」
少年が戻ってくると、少女はもう居ませんでした。
ボロボロの建物の中。色とりどりの光に照らされる大きな十字架だけがそこにあります。
少年は持ってきた花を十字架の前へと供え、手を組み目を瞑ります。
キラキラと光が舞う小さな教会の中で、少年は少女のように一心に祈り続けました。