おはなしの森

日々を過ごし感じること、思い浮かぶこと。世界はたくさんの物語で溢れている。

【お題短編】小さな教会

 

【未来・十字架・恩返し】

 

崩れた建物の中にある大きな大きな十字架の前。

キラキラと色とりどりの光がチラつくその場所で一人の少女が熱心に祈りを捧げています。

「なにをしてるの?」

一人の男の子が少女へと声をかけました。

「許しを乞うているのです。」

祈り続けながら少女は答えます。

「なにか悪いことしたの?」

男の子は少女の隣へと座り話しかけ続けました。

「私ではありません。」

ゆっくりと目を開き、少女は少年を見つめます。

「私の恩人が無知ゆえに神様を怒らせてしまったのです。」

「お姉さんがやったんじゃないのに、お姉さんが謝るの?変だよ。自分で謝らなきゃ。」

少年の言葉に少女は微笑みます。

「ええ。けれど彼はもう謝ることが不可能なんです。」

少女はもう一度十字架に向けて祈りの姿勢を取り目を瞑りました。

「私が祈って、どれほど効果があるものか分かりません。けれどやらずにはいられないのです。

もし、私の行いで彼と出会えなくなってしまったとしても。それでも、私は彼に報いたい。」

「・・・すごく大事な人なんだね。」

あまりにも熱心な様子に少年はポツリと返しました。

「はい。とても。私に、生きることを教えてくださいました。」

少年は一心に祈る少女をじっと見つめて、おもむろに立ち上がります。

「待ってて!僕、お花持ってきてあげる。それで、僕も一緒に祈るよ。そしたら、神様はもっと許してくれるかもしれない!」

そう言ってお気に入りのお花畑の方へかけていきました。

「えぇ。・・・えぇ。きっと、これで許していただけます。」

見送った少女の目から、ポタリと雫が地面へと落ちて地面にパシャリと消えていきました。

 

「持ってきたよ!!・・・・・・あれ?」

少年が戻ってくると、少女はもう居ませんでした。

ボロボロの建物の中。色とりどりの光に照らされる大きな十字架だけがそこにあります。

 

少年は持ってきた花を十字架の前へと供え、手を組み目を瞑ります。

 

キラキラと光が舞う小さな教会の中で、少年は少女のように一心に祈り続けました。

 

 

 

 

 

 

【お題短編】大切な宝物

 

【宝物・レモンクリーム・水】

 

そっと窓へと手を向ける

外は雨が降っていて、水の筋がたくさん着いていた

つーっとスジをなぞるように指を動かす

ガラスに反射して、私の姿も窓に写っている

雨に降られ、水に濡れた私が

 

お気に入りのレモンクリームのワンピースも

朝から長い時間をかけてセットした髪も

全部、全部、びしゃびしゃだ

 

窓の向こうで水に濡れた私は

酷く冷めた目でこちらを見ている

「ばかみたい」

音もなく口が動いた

そしてすぐ、ぐしゃりと顔が歪んだ

「わかってるもの。」

自然と言葉が漏れて視界を覆った

 

そんな自分を見たくなかった

そんな私は知らない方がいい

 

がちゃり。

 

宝箱の中に押し込んで鍵をかけた

ゆっくりと目を開いたその子は晴れやかな顔で

「行ってきます」と出かけていく

 

誰もいなくなったその部屋に鍵のかかった宝箱だけがポツンと残った

 

恐怖と憧れそして夢。

 

とある天才小説家が主人公の小説を読んだ事がある。

 

複雑な家庭で育って、不幸のどん底みたいな日々を這いずって書き上げた小説が高い評価を経て一躍有名作家になる。

そうして幸せな日々が少しづつ主人公へと訪れる。

 

けれど、幸せになればなるほど主人公は筆を取れなくなる。

担当編集者さんが彼女へと言った

「お前は幸せになっちゃいけない」と。

 

当然主人公は苦悩する。

そして迫られる、つかみかけてる幸せと小説を描き続ける日々の選択を。

 

私のこの小説を読んだ時、愕然としてしまった。

こんなに恐ろしい作品があるのかと震えた。

 

趣味とはいえ、小説を書いている私にとってその本はとても恐ろしい作品だった。

 

故に、その作品は私の心に強く強く根付いている。

 

筆が進まない時、頭の中を過ってしまう。

 

私にとってこの作品は二度と読みたくないトラウマ作品になってしまったけれど、私が小説を書く限り忘れられない作品にもなった。

 

誰かの心を掴む素晴らしい作品であると思う。

 

私もいつかそういう作品を作りたいと思う。

 

誰かの心の中に寄り添い存在し続けるような作品を。

 

いつか、この作品の恐怖を乗り越えることが私の夢です。

 

【短編】人生

 

死ぬことは恐ろしい

日々身体が衰え、朽ちていくのを実感するのも

今ある意識が消えてなくなってしまうことも  

 

恐ろしくて、恐ろしくて

 

その先にもきっと何かがあるはずだと夢想して

みんなそうだと、そうあるべきだと達観して

死に対する無知の恐怖へと立ち向かう

 

そしてある時誰かが言った

 

「死なない身体を手に入れよう。私たちにはできるはずだ。」

 

彼らは縋る

強大な恐怖から逃れる術に

 

禁忌とされる不老不死という存在に

 

そうして長い長い年月を重ね、そこへと辿り着いた

 

人は死ななくなった

不老不死を手に入れた

 

膨大な、途方もない時間の中へと投げ出された

 

何故、頑張るのかわからなくなった

何を糧に生きればいいのかわからなくなった

生きれば生きるほど、気力がゴリゴリ減っていく

 

生きるがなんなのか分かるものなど、どこにもいなくなった

 

そしてまた、誰かが言った

「こんなのは生物として正しくない。死なないのは生きてないのと同じだ。」

 

彼らは縋った   

気が触れるほどの長い時を終わらせられる術に

 

生きる事、死ぬこと、そして己自身の存在に意味を見いだせることを

 

時間は沢山あった 

長い長い時を重ねて、ようやく彼らはたどり着く

 

正しい人のあり方に

生きて、死ぬ

そんな夢のような人生に

 

彼らは言った

「もう二度と同じ過ちを犯さないよう。不老不死について触れてはいけない」

 

こうして不老不死は禁忌とされた

 

けれど彼らは知らない

始まり終わり、短いサイクルの中で生きるものに

 

その恐怖は伝わらない 

 

伝わらないのだ

 

 

「死なない身体を手に入れよう。私たちにはそれが出来るはずだ」

 

 

                                                                                         END

 

 

 

 

 

 

書きたいのになぁ

 

ぐるぐる

ぐるぐる

 

文章にならない単語が身体の中で

 

モヤモヤ

モヤモヤ

 

繋がりのないシーンのイメージがふっと浮いては消えていく

 

形にしたくても、文章にしたくても

手を伸ばすとふわっと消えてしまう

 

真っ白な紙を睨みつけ、想像の手をあちらこちらへと伸ばしてみる

 

己の中にあるものと追いかけっこをして

 

今日もまだ、紙はしろいまま

【お題短編】小さな来訪者との逢瀬

 

【ラベンダー、音、稚魚】

 

風鈴のような可愛らしい音とともにそれはやってくる。

窓の方から入ってくることもあれば、机の引き出しを開けた途端に出てきたこともあった。

その日はなんだか1日上手くいかない日だった。

小さなミスをポツポツと積み重ね、しょうもないことで何時間も怒られた。

1人になって重いため息を吐く。

あそこでああしていれば、先にこうしていたら。

今更考えてもどうしようも無いことが次々と浮かんでは消えていく。ぐるぐる。ぐるぐる。

 

思考にのみ込まれていた私の耳にしゃらんと響く音が届いた。

 

ハッとして視線をあげれば、そこには小さな紫色の魚が1匹。

軽やかな音をたてて私の髪の中へと潜っていった。

しゃらん。

しゃららん。

その小さな魚は音をたて私の体の周りを楽しそうに泳ぎ回る。手をそっと差し出せばそれに答えるように腕の周りをジグザグと泳いでいく。

ヒレや尾びれがふわりといたずらに肌を撫でていき、

小さな魚が動くたびにふわりと微かにラベンダーの香りが広がっていく。

いつの間にか、口角があがり小さな魚と遊ぶ事に夢中になっていた。

 

どのくらいそうしていたか。

不意に、小さな魚は目の前へやってくると一回転をして尾びれを震わせてみせた。

「・・・うん。もう大丈夫。ありがとう。」

微笑み、うなずくと小さな魚はもう一度くるんと回り、そうしてふわっと空気に溶けて消えていった。

 

再び、1人になった。

けれど今度はため息の代わりに笑みをこぼした。

「またね。」

何も無い部屋にポツリとこぼし、しっかりとした足取りで部屋を出た。

誰もいなくなった微かにラベンダーの香りがするその部屋でしゃらんと小さく音が響いた。

 


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ガラスペンで紡ぐ言ノ葉

 

ペン先にインクをつける。

じわぁ。っとインクがかけ上がる。

はやる心臓を意識しながら紙へとペンを近づけた。

ゆっくりと文字を書く。

紙へとインクが流れ込んでいく。

言葉が生まれる。

想いが、インクとともに髪へと染み込んでゆく。

言ノ葉を紡いで染み込ませる。

まだ見ぬ誰か、顔も知らないあなたの心にも

私の思いが流れ染みわたったのなら

こんなに嬉しいことは無いでしょう。

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