星が輝き、三日月が見守る中に鳥籠がひとつ。
ゆらゆらと揺れている。
鳥籠の中には
黄色い体に鮮やかなオレンジの嘴と羽をもった鳥が1羽。
鳥籠と共にゆらゆらと揺れている。
その下には、揺られる鳥籠を見つめる1匹の黒猫。
「ねぇ、そこは狭いでしょう?」
黒猫は鳥籠の中にいる鳥へと何度目か分からない問いかけをする。
「生まれてからずっとここに居るから、狭いとか考えた事ないよ。」
鳥も同じように何度目か分からない答えを返した。
「外の鳥たちはね、お空をうーんと自由に飛び回るんだよ。見たの。あなたのような鳥があのお月様のように空へ浮かんでいくのを。」
黒猫は夜空に浮かぶ三日月を見つめて自分の見た事を思い出しうっとりとする。
「すごくね、きれいだった。」
反対に鳥は興味無さそうに。
「へぇ。そうかい。それはすごいね。」
と返しただけだった。
「あなたはずーっとそこにいるけれど、もっと自由に動き回りたいって思わないの?」
黒猫は不思議そうに鳥へと尋ねた。
黒猫は自由が好きで。動き回ることが大好きだったから、鳥が一日中狭い籠の中でジーッとしているのが心底不思議だったのだ。
「僕はじっとしてるのが好きだからね。こうしてゆらゆらと揺られているのがとても落ち着くのさ。」
ゆらり、ゆらりと揺られている鳥籠の中で鳥はそう答えた。
「ふーん。変なの。私ならきっと耐えられないのに。」
「僕からしたら、そんなに忙しなく動き回ってなんで疲れないんだろうって思うよ。そっちの方が僕には耐えられないね。」
納得出来ないと思いっきり顔に書いてある黒猫に鳥はくすくす笑いながらそう言った。
けれども黒猫は諦めずにもう一度問いかける。
「でも、1度くらいはそれを壊して出てきてみたいって思わない?」
「君は1度でもその首に巻き付けたものを壊そうと思うかい?」
質問に答えず問いを返された黒猫は、ぱちくりと目を瞬いた。
自分の首にぐるりと巻きついた淡いピンク色の首輪。
可愛いあの子が黒猫に似合うと黒猫にくれた大切で大事なもの。
「壊すわけない!たった一度だって壊そうなんて思わないよ。これは大切だもん。」
大きな声で鳥へと返すと、鳥は
「それと同じことさ。」
と笑った。
それを聞いて黒猫は諦めたように地面へと伏せる。
しかし、今度は鳥が黒猫へと問いかける。
「それにしても、今日は嫌に粘ったね。どうしたの?」
不思議そうにかけられた声に黒猫はゆっくりと体を持ち上げた。
「だって、本当にきれいだったの。青い空につーって上がっていく鳥たちが。」
そう言って黒猫は夜空を見上げる。
「あなたはお月様とおんなじ色をしてるでしょう?
だから、きっと、あなたが浮かんでいったらもっともっと綺麗なんだろうなぁってそう思ったの。」
そして、目の前の鳥籠の中で揺られている鳥へと目を向ける。
「私はそれを見てみたいなぁって思ったの。」
まっすぐ見つめられた鳥はパタパタと少し羽を動かし、そして、少し照れくさそうに
「それは、光栄な事だね。」
と微笑んだ。
しばらく羽をパタつかせてから鳥が再度口を開く。
「ねぇ、知ってるかい。僕はここで揺られているのがとっても気に入っているけれど、それと同じくらいこうやって君とおしゃべりするのも好きなんだ。
」
それを聞いて黒猫はぱちくりと目を瞬かせそれからにっこりと笑う。
「それは、とても光栄な事ね。」
キラキラと瞬く星々に囲まれた中。
ゆらりゆらりと揺れる鳥籠とそれにより沿うように座る黒猫の楽しそうなお喋りを今日も
お月様が優しく見守っている。