おはなしの森

日々を過ごし感じること、思い浮かぶこと。世界はたくさんの物語で溢れている。

姿なき訪問

 

 

朝起きて、カーテンを開ける

 

太陽の柔らかい光が部屋の中へと降り注ぐ

 

ひとつ、大きく深呼吸して

リビングにある大きなソファーへとダイブする。

 

何の変哲もない天井を見つめてボーッとしていると、窓の外から

 

「ホーホケキョ。」

 

と声がする。

 

「ホケキョ。」

 

なんとなく返してみた。

 

「ホーホケキョ。」

「ホケキョ。」

「ホーホケキョ。」

「ケキョケキョ?」

「ホーホケキョ。」

「ホケキョ。」

 

しばらく姿の見えない可愛いお友達とお話をしていると、窓の外からバサバサッという羽ばたきの音がしてそれっきり声は聞こえなくなった。

 

 

「ホーホケキョ。」

 

いってらしゃいを込めて最後に一言つぶやいてソファーから体を起こす。

 

うーーんと伸びをして、支度を始める。

 

うん。今日もきっと、とてもいい日だ。

 



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【短編】おともだち

 

「幽霊になったら何がしたい?」

 

唐突にかけられた声に、チラリと横に座る男に目を向ける。

 

「・・・・・・。」

 

「え?無視?無視は酷いよ!」

 

ニコニコ笑う男から視線を本に戻すと、男は隣で大袈裟に身振り手振り使って邪魔してくる。

 

「勝手に隣に座らないでくれる?」

 

鬱陶しさに視線は本に向けたままそう冷たく告げたのだが、男はパァーっと輝かんばかりの笑みをうかべ

 

「僕はさ、僕はさ、空飛んだりこの学校の敷地を壁とかガンガンすり抜けてまっすぐ歩いたりしたいんだよね。何秒で端から端まで行けると思う?まっすぐだから30秒あれば端から端まで行けると思うんだよね僕。」

 

こちらの様子お構い無しでマシンガントークを始めた。

 

「よくさ、女子トイレ除くとか女子の着替えを除くとかあるじゃん。でも、僕それは良くないって思うんだ。例え見えないからってさ、それは良くないよ!絶対!!」

 

「そう、紳士的ね」

 

大袈裟に、身振り手振りを交えながら熱心に話す男に適当に返事を返せば男は嬉しそうに

「そうかな?えへへ。そうかなぁ?」と1人で悶えている。

 

「気持ち悪いからやめて。今すぐ。」

 

眉をしかめてそういえば男は素直におかしな挙動を止めた。

 

「うん、ごめんね。でもおしゃべり楽しいねぇ。」

 

「私は楽しくないわ。嫌な視線が集まるもの。」

 

なおも、ヘラヘラと笑う男にピシャリと言い放ち周囲に視線を巡らせるとそこかしこでヒソヒソ、クスクスと声が聞こえてくる。

 

「ねぇ、あれさぁ」

「しっ!見ちゃダメだよ。頭おかしいの伝染るよ。」

「きもちわるぅい。」

「1人で喋って何やってんだろ。」

「イマジナリーフレンドじゃね?」

 

好き勝手話して嫌な視線を不躾に送ってくる彼らに眉間のシワがいっそう深くなった。

 

「あ、あー。ごめんね。ぼく、でも、」

 

やっと周りの様子に気がついたのか、隣の男がさきほどまでの態度とは打って変わって俯きボソボソと話す。

 

テーブルの上に投げ出されていた手は固く、固く握りしめられまっすぐこちらを見つめていた瞳は今はじっと己の膝あたりをウロウロとさ迷わせていている。

 

「周りの視線が嫌なだけで、別にあんたと話すのが嫌なわけじゃないわ。」

 

ジメジメとした態度があまりにも鬱陶しくてため息とともにそう告げると、男はパッと顔を上げて私の顔をジーッと見つめてきた。

 

なんだか居心地が悪いので視線を逸らし逃げるように手元の本へとグッと顔を近づける。

 

「あのさ!じゃあさ!また、おしゃべりに来てもいい?」

 

明るく、嬉しそうな弾んだ声がすぐ横で響いている。

 

「・・・図書館の出入りは自由でしょ。好きにすればいいじゃない。」

 

それに素っ気なく返せば、男の大きな返事と学校のチャイムが辺りに響いた。

 

「じゃ、じゃあ、また来るね」

 

にこにこと手を振る男に、視線だけで返事をして私も立ち上がる。

 

『 幽霊になったら何がしたい?』

 

男の質問を思い出して、ぽつりと呟く。

 

「何がしたいとか、考えたこと無かったな。」

 

まっすぐ歩きながら、考える。

私ならどうだろうと。

そして、その答えを次会った時あの男と話したらあの大袈裟な男はどんな反応をするだろうか。

 

込み上げる笑みをそのままに、少女はゆっくりと本棚の中へと消えていった。



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日常の非日常

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

一定の間隔で、低い音が響いている。   

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

低い低いその振動は私の体をビリビリと揺らしている。

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

いま、私はどこにいるんだろう?

なにをしていたんだっけ?

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

チカチカとまぶたの向こうで光が瞬いている。

あぁ、わたし  目をつぶってるんだ。

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

ごおぅん。ごおぅん。

 

 

 

 

 

「はい、終わりましたよー」

 

暗いところから引きづり出されて看護婦さんに声をかけられる。

 

ゆっくり開いたまぶたに白い天井とライトが見えた。

 

「ふふっ。」

 

思わず笑ってしまった私に、看護婦さんが不思議そうに首を傾げる。

 

「なんだか、どこかに転送されてるみたいで。

・・・ちょっと楽しかったです。」

 

緩む頬をそのままに初めての体験の感想を告げると、看護婦さんはキョトンとした後すぐににっこりと微笑み返してくれた

 

 

 

お昼寝

 

青く透き通るお空からサンサンと太陽が降り注ぐ

 

ベランダの窓を開けて、その太陽を家の中へと招き入れた。

照らされている畳の上に寝そべり、大きく深呼吸をひとつ。

 

視界に広がるのは、綺麗な青と

ゆるりと移動していく白い雲たち

 

 

どこからが聞こえる、鳥たちの囀りと

遠くから聞こえる、子供達の笑い声

 

太陽に光に包まれたからだは、じんわりと暖められていき、ゆっくりと瞼が閉じていく

 

落ちていく意識の中ふと、「幸せだなぁ」と思った。
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【短編】鳥と黒猫とお月様

 

 

星が輝き、三日月が見守る中に鳥籠がひとつ。

ゆらゆらと揺れている。

 

鳥籠の中には

黄色い体に鮮やかなオレンジの嘴と羽をもった鳥が1羽。

鳥籠と共にゆらゆらと揺れている。

 

その下には、揺られる鳥籠を見つめる1匹の黒猫。


「ねぇ、そこは狭いでしょう?」

 

黒猫は鳥籠の中にいる鳥へと何度目か分からない問いかけをする。

 

「生まれてからずっとここに居るから、狭いとか考えた事ないよ。」

 

鳥も同じように何度目か分からない答えを返した。

 

「外の鳥たちはね、お空をうーんと自由に飛び回るんだよ。見たの。あなたのような鳥があのお月様のように空へ浮かんでいくのを。」

 

黒猫は夜空に浮かぶ三日月を見つめて自分の見た事を思い出しうっとりとする。

 

「すごくね、きれいだった。」

 

反対に鳥は興味無さそうに。

 

「へぇ。そうかい。それはすごいね。」

 

と返しただけだった。

 

「あなたはずーっとそこにいるけれど、もっと自由に動き回りたいって思わないの?」

 

黒猫は不思議そうに鳥へと尋ねた。

 

黒猫は自由が好きで。動き回ることが大好きだったから、鳥が一日中狭い籠の中でジーッとしているのが心底不思議だったのだ。

 

「僕はじっとしてるのが好きだからね。こうしてゆらゆらと揺られているのがとても落ち着くのさ。」

 

ゆらりゆらりと揺られている鳥籠の中で鳥はそう答えた。

 

「ふーん。変なの。私ならきっと耐えられないのに。」

 

「僕からしたら、そんなに忙しなく動き回ってなんで疲れないんだろうって思うよ。そっちの方が僕には耐えられないね。」

 

納得出来ないと思いっきり顔に書いてある黒猫に鳥はくすくす笑いながらそう言った。

 

けれども黒猫は諦めずにもう一度問いかける。

 

「でも、1度くらいはそれを壊して出てきてみたいって思わない?」

 

「君は1度でもその首に巻き付けたものを壊そうと思うかい?」

 

質問に答えず問いを返された黒猫は、ぱちくりと目を瞬いた。

自分の首にぐるりと巻きついた淡いピンク色の首輪。

可愛いあの子が黒猫に似合うと黒猫にくれた大切で大事なもの。

 

「壊すわけない!たった一度だって壊そうなんて思わないよ。これは大切だもん。」

 

大きな声で鳥へと返すと、鳥は

 

「それと同じことさ。」

 

と笑った。

 

それを聞いて黒猫は諦めたように地面へと伏せる。

しかし、今度は鳥が黒猫へと問いかける。

 

「それにしても、今日は嫌に粘ったね。どうしたの?」

 

不思議そうにかけられた声に黒猫はゆっくりと体を持ち上げた。

 

「だって、本当にきれいだったの。青い空につーって上がっていく鳥たちが。」

 

そう言って黒猫は夜空を見上げる。

 

「あなたはお月様とおんなじ色をしてるでしょう?

だから、きっと、あなたが浮かんでいったらもっともっと綺麗なんだろうなぁってそう思ったの。」

 

そして、目の前の鳥籠の中で揺られている鳥へと目を向ける。

 

「私はそれを見てみたいなぁって思ったの。」

 

まっすぐ見つめられた鳥はパタパタと少し羽を動かし、そして、少し照れくさそうに

 

「それは、光栄な事だね。」

 

と微笑んだ。

しばらく羽をパタつかせてから鳥が再度口を開く。

 

「ねぇ、知ってるかい。僕はここで揺られているのがとっても気に入っているけれど、それと同じくらいこうやって君とおしゃべりするのも好きなんだ。

 

それを聞いて黒猫はぱちくりと目を瞬かせそれからにっこりと笑う。

 

「それは、とても光栄な事ね。」

 

 

キラキラと瞬く星々に囲まれた中。

 

ゆらりゆらりと揺れる鳥籠とそれにより沿うように座る黒猫の楽しそうなお喋りを今日も

 

お月様が優しく見守っている。


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はじまり

 

 

瞼をゆっくりと持ち上げる

 

視界に入ってきたのはぼんやりとした世界。

薄暗く、ゆらゆらと光が揺れている。

 

とっとっとっ

 

様々な音が聞こえる中で一際大きく聞こえている一定のリズムで刻まれた音にとてつもない安心感を覚えてゆっくりと瞬きをした。

 

ときおり遠くの方から届く、くぐもった心地よい振動がくすぐったくて、幸せで手足をパタパタと動かしてみる。

 

振動が一段と大きくなって、心地よい振動にゆっくりと瞼が閉じてゆく。

 

「はやく、会いたいわ。私の赤ちゃん。」

 

意識が落ちていく寸前、優しく暖かい振動が私を包み込んだ気がした。

 


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私だけの大切な

 

 

順位をつけるのが苦手だった。

 

大切なもの

 

すきなもの

 

おきにいり

 

私の中にそれは沢山あって、世界にもそれは溢れかえるほど沢山あるのに

みんなが言う

 

「どれが1番いい?」

 

と。

 

1番ってなんだろう。

何にでも、いい所と悪いところがあるのに。

どうやって1番を決めてるんだろう?

私は全部好きだけどな。

全部好きじゃダメなのかな。

 

 

人は優劣をつけたがるもので、

何かにおいて競うのが好きで

順番をつけたがる

 

 

誰かが言った。

【お前は甘い。現実を舐めてる。】

 

誰かが呆れた。

【競争心が無さすぎる。上を目指そうとは思わないの?】

 

誰かが怒った。

【いい子ちゃんぶるな。八方美人かよ。】

 

誰かが哀れんだ。

【君は執着心が無さすぎる。人として何か欠けてるみたいだ】

 

 

わからない。

わからない。

わからない。

 

 

楽しいだけじゃダメなのかな?

みんな優しいね。暖かいねって

それじゃあダメなの?

たった一度きりの人生なのに。

 

人生は辛く苦しい

 

 

それって一体誰が決めたんだろう?

 

楽しく幸せでのほほんとお気楽気分で

 

それの一体どこがいけないことなんだろう?

 

 

たった一度の人生だよ?

 

自分だけの、自分のための人生だ。

 

 

なんでその生き方を他人にアレコレ指図されなきゃいけないの?

 

そんな狭い中に無理やり収まろうとするから辛くて苦しいんじゃないのかなぁ?

 

飛び出してみればいいのに。

きっと自分が思っているよりも簡単にソレは壊れる。

 

考え方ひとつ。

捉え方ひとつ。

 

少し視点を変えるだけでもきっと違う。

 

助けてくれる人は思ったより周りにいてくれて

手を伸ばせば意外と誰かが手を取ってくれるもの。

 

 

踏み出すその1歩はきっととてつもなく怖いかもしれないけれど、踏み出しちゃえば案外なんともないかも。

 

自分だけのものだよ人生は。

どう生きるかも、どうあるのかも。

全部、全部、自分で決めていい。

 

 

 

だから、わたしはこれでいい。